救急隊員の顔を蹴り公務執行妨害罪の疑いで男を逮捕①
救急隊員の顔を蹴り公務執行妨害罪の疑いで逮捕された刑事事件に対する弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務京都支部が解説いたします。
事例
京都府木津川市で今年9月18日夜、自分を運んだ救急隊員に暴行したとして、会社員の男(43歳)が公務執行妨害罪の疑いで逮捕されました。
京都府木津警察署によりますと同日午後8時すぎ、木津川市内の路上に男が倒れていると119番通報があり、京都府木津川市の救急隊が出動しました。
同市内の病院に搬送される途中、男は近くにいた男性救急隊員(34歳)の顔面を足で蹴り、隊員は軽いケガをしました。
同署は翌日、男を公務執行妨害罪の疑いで逮捕いたしました。
(※実際にあった事件をもとに作成したフィクションです)
一つの行為で二つ犯罪が成立する観念的競合とは?
観念的競合とは一つの行為で複数の犯罪が成立する概念です(刑法54条1項前段)。
処罰については、その最も重い罪の刑により処断するとされています(刑法54条1項後段)。
例えば、住居に住んでいる人を殺す目的で住居に火をつけ死亡させた場合は、殺人罪と放火罪(現住建造物等放火罪)が成立しますが、行為者の行為は一個であるため、観念的競合として、より重い罪の方で処罰されることになります。
殺人罪と現住建造物等放火罪はどちらも「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」(刑法199条、108条)ですから、殺人罪、現住建造物等放火罪どちらで処罰が下されても刑罰は同じものになります。
事例の逮捕罪名である、公務執行妨害罪は観念的競合が成立する代表例になります。
公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するに当たり、暴行または脅迫を加えた場合に成立します(刑法95条1項)。
刑罰は3年以下の懲役又は禁錮又は50万円以下の罰金です。
公務執行妨害罪の「公務員」とは法令により公務に従事する職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員のことであり(刑法第7条)、「職務を執行するに当たり」とは、職務を執行中のときだけでなく、職務を開始しようとするとき、または今まさに職務を終了するときも該当します。
なお休憩中など、職務から離れた場合は該当しません。
また、公務執行妨害罪が規定する「暴行」、「脅迫」は、暴行罪が規定する「暴行」、脅迫罪が規定する「脅迫」よりも広く規定されています。
「暴行」は、殴る・蹴るなどの身体への有形力の行使だけでなく、目の前で物を割る・相手の耳元で拡声器をもって大声をあげるなど物理的・心理的な影響を与えるものも該当します。
「脅迫」は、人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいい、「殺すぞ」「殴るぞ」など有形力を行使するかのように脅す行為などがあたります。
「暴行」や「脅迫」が認められるためには、公務員の職務の執行を妨害するおそれがあればよく、警察官の目の前で証拠を毀損するなど、公務員に直接向けられた暴行や脅迫でなくても公務執行妨害罪は成立します。
また、上記のように公務員の職務執行を妨害するおそれがあればよく、現実に公務の執行を妨害する必要はないとされています。
このように職務中の公務員に暴行や脅迫などを加えた場合、公務執行妨害罪が成立します。
その他に暴行の結果、傷害を負わせた場合は公務執行妨害罪以外に傷害罪が、「殴るぞ」など人の身体等に害を加えることを告知した場合は脅迫罪が同時に成立することになります。
今回の事例で男は通報を受けて駆けつけた消防隊員に対し、顔面を蹴り軽いケガを負わせています。
公務の執行中の公務員に対しての暴行になりますので公務執行妨害罪が該当し、また、消防隊員に傷害を負わせていますので、傷害罪も成立することになるでしょう。
この場合、公務執行妨害罪と傷害罪の重い刑の方で処罰されることになります。
傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(刑法第204条)ですから、事例の男性は公務執行妨害罪よりも科される刑罰の重い傷害罪で処罰される可能性があります。
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ご家族が逮捕された方は、お早めに、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。