事例
京都府警中京署は25日、窃盗の疑いで、神戸市中央区の会社員の男(37)を逮捕した。
(8月25日 京都新聞 「百貨店員かたり高齢女性のカード盗む 300万円引き出し 容疑で会社員男逮捕」より引用)
逮捕容疑は、共謀して7月27日、百貨店従業員などをかたり、京都市中京区の女性(85)宅に「クレジットカードが不正利用されている」と電話し、女性宅を訪れてキャッシュカード4枚を盗み取った疑い。
(中略)
中京署によると、男は同27~28日、キャッシュカード4枚を使い、京都市内の金融機関のATMで計300万円を引き出したという。
今回の事例では詐欺罪が適用されないのか疑問に思われた方もいると思います。
実際に、身分を偽ってキャッシュカードなどを不正に入手する行為は詐欺事件でよく使われる手口です。
今回の事例の男性はなぜ詐欺罪ではなく窃盗罪の容疑で逮捕されたのでしょうか。
今回のブログでは、窃盗罪と詐欺罪について解説していきます。
窃盗罪と詐欺罪
まずは、窃盗罪と詐欺罪の条文を見ていきましょう。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
刑法第246条第1項
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
刑法第235条が窃盗罪、刑法第246条第1項が詐欺罪の条文になっています。
簡単に窃盗罪、詐欺罪を説明すると、人の物を盗むと窃盗罪、人をだまして物を交付させると詐欺罪にあたります。
詐欺罪が適用されるためには、人をだますことと、物を交付させることが必要になります。
今回の事例では、百貨店従業員などをかたって不正利用されているとうその電話をしていることから、人をだます行為を行っていることがわかります。
次に、交付をさせたかどうかが問題になりますが、このような特殊詐欺事件の場合、キャッシュカードや現金の受け取り方方法により、交付させたのかどうかの判断が変わってきます。
例えば、キャッシュカードや現金を直接受け取る場合や宅配便で受け取る場合は交付されたとみなされ詐欺罪が適用されます。
一方で、キャッシュカードや現金を封筒に入れるなどしてすり替えた場合には窃取したとみなされ窃盗罪が適用されます。
ご紹介した事例では詳しい受け取り方法が明示されていませんが、引用記事内にキャッシュカードを窃取したと記載されていることから、交付されたとみなされない方法で受け取ったのだと考えられます。
財物を交付されていないのであれば詐欺罪は適用されませんので、今回の事例では窃盗罪が適用されることになります。
では、不正に入手したキャッシュカードでお金を引きだす行為は詐欺罪、窃盗罪のどちらが適用されるのでしょうか。
詐欺罪が適用されるためには、人を欺くことが必要です。
ATMからお金を引き出す行為(いわゆる出し子)は機械を相手にしているので、詐欺罪ではなく窃盗罪が適用されることになります。
詐欺罪で有罪となった場合には執行猶予が付かない限り、実刑判決が下されます。
詐欺事件に関わる犯行であった場合、窃盗罪と詐欺罪どちらで有罪になっても、詐欺事件に関与する行為であれば、科される量刑が大きく変わることはありません。
キャッシュカードをだまし取って詐欺罪となっても、キャッシュカードをすり替えて窃盗罪となっても、悪質性を考えた際には大きな差はないと考えられるためです。
ですので、逮捕時や起訴時の罪状が窃盗罪であっても、詐欺罪と同様に実刑判決が下される可能性があります。
詐欺行為に関わる窃盗罪で逮捕された場合はお早めに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。