ポイント獲得のためのホテルキャンセルで逮捕②偽計業務妨害罪
ポイント獲得のためのホテルキャンセルで逮捕されたケースで、特に偽計業務妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
Aさんは、旅行をするとき、Xというサイトを利用し、利用するホテルの予約をしていました。
というのも、Xを利用してホテルの予約をしてホテルの利用をすれば、ホテルの利用料金の一部がAさんがよく使っているYというカードのポイントで還元されるサービスがあったからでした。
ある日Aさんは、このサービスは、ホテルの予約をキャンセルしても、ホテル側が手続きをしなければ予約者へのポイント付与はそのまま行われるシステムであることに気が付きました。
そこでAさんは、京都市右京区にあるVという高級なホテルに偽名と偽の連絡先で予約を入れては予約日当日に無断でキャンセルすることを繰り返し、Yカードのポイントをもらっていました。
するとある日、京都府右京警察署の警察官がAさん宅を訪れ、Aさんは私電磁的記録不正作出・同供用罪と偽計業務妨害罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(※令和2年1月22日京都新聞配信記事を基にしたフィクションです。)
・偽計業務妨害罪
前回の記事では、Aさんに私電磁的記録不正作出罪・同供用罪が成立する可能性があることに触れましたが、今回の記事ではAさんのもう1つの逮捕容疑である偽計業務妨害罪という犯罪について触れていきます。
刑法233条(偽計業務妨害罪)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
偽計業務妨害罪は刑法233条の「偽計を用いて」「その業務を妨害した者」に該当した場合に成立する犯罪です。
まず、偽計業務妨害罪の客体となる「業務」とは、自然人または法人、その他の団体が社会生活上の地位において、あるいはこれと関連しておこなう職業その他の継続して従事することを必要とする事務を指すとされています。
この事務は、経済的に収入を得る目的の事務でなくともよいと解されており、つまり、いわゆる「仕事」でなくとも偽計業務妨害罪の「業務」に当たり得るということになっています。
例えば、今回のAさんの事例のようなサイトやホテルの営業・運営は、サイト運営会社やホテルを経営する会社がその社会的地位に基づいて行う職業であり、継続して従事することを必要としている仕事ですから、問題なく偽計業務妨害罪の「業務」にあたるといえるでしょう。
ただし、偽計業務妨害罪の「業務」には娯楽目的のものは含まれないため、注意が必要です。
そして、偽計業務妨害罪の成立にはその「業務」を「偽計を用いて」「妨害」することが必要です。
「妨害」に用いられる「偽計」とは、人を欺罔・誘惑し、または他人の無知・錯誤を利用することを言うとされています。
すなわち、人を騙したり誘惑したり、人が知らないことや勘違いしていることにつけこんだりして「業務」を「妨害」すれば、偽計業務妨害罪が成立するということです。
今回のAさんの事例で考えてみましょう。
Aさんは、無断キャンセルを前提として偽の予約情報を登録しています。
Aさんはサイトやホテルをその偽の予約情報で騙す形になりますから、偽計業務妨害罪のいう「偽計を用いて」いることになるといえるでしょう。
最後に、「妨害した」という言葉の意味についてですが、これは文字通り、実際に業務を妨げたということ以外にも、業務を妨げる危険を生じさせたということも含んでいるとされています。
ですから、実際に「業務」が妨害された事実がなくとも、妨害の危険が生じていれば偽計業務妨害罪の「妨害した」に当てはまると判断されるのです。
今回のAさんは、無断キャンセル前提の偽の予約情報をサイトXを通じて登録しています。
当然、予約が入ればサイトもホテルもその予約への対応のために人員や時間、費用を割き、業務を行います。
しかし、その予約が無断キャンセル前提の偽の予約であれば、偽の予約への対応に割かれた人員や時間、費用は無駄なものであり、通常他の業務に回せたはずのものですから、業務に支障が出ていると考えられます。
無断キャンセルがあれば、ホテルはその対応もしなければならず、余計な業務を増やしたことで通常の業務を妨げているとも言えるでしょう。
以上のことから、今回のAさんの行為は偽計業務妨害罪にも当てはまると考えられるのです。
刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、こういった無断キャンセルに関連した偽計業務妨害事件のご相談も受け付けています。
京都府の刑事事件にお困りの際は弊所弁護士までご相談ください。