窓を割った建造物損壊事件で逮捕されてしまった
窓を割った建造物損壊事件で逮捕されてしまったというケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
Aさんは、京都府城陽市にある宿泊施設Vに泊まった際、施設の対応が気にくわなかったことから、嫌がらせをしてやろうと考え、ハンマーを使ってVの窓ガラス(縦約0.5メートル、横約2メートル)を1枚割りました。
Vの職員が窓が割れていることに気付き、京都府城陽警察署に通報。
捜査の結果、Aさんが窓ガラスを割ったことが判明し、Aさんは建造物損壊罪の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんが逮捕されたことを知ったAさんの妻は、突然の事態に何をしてよいのか分からず、混乱しています。
Aさんの妻は、とにかく事態を把握したいと考え、京都府の逮捕に対応している弁護士に問い合わせ、Aさんの下へ接見に行ってもらうことにしました。
(※令和3年11月7日京都新聞配信記事を基にしたフィクションです。)
・窓を割って建造物損壊罪に
今回の事例のAさんは、宿泊施設Vの窓ガラスを割ったことで建造物損壊罪に問われているようです。
こうした物を壊す犯罪としては、Aさんの逮捕容疑となっている建造物損壊罪の他に、器物損壊罪もイメージされるところです。
刑法第260条(建造物等損壊罪)
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。
よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
刑法第261条(器物損壊罪)
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑法第264条(親告罪)
第259条、第261条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
この2つの犯罪は、罪名にある通り、壊した対象が何かという部分に大きな違いがあります。
壊した対象物が異なるだけだと思われるのかもしれませんが、建造物損壊罪が成立するのか器物損壊罪が成立するのかでは、有罪となったときに科される刑罰の重さが大きく異なります。
条文からも見て取れるように、建造物損壊罪には罰金刑の規定がないため、罰金を支払って終了ということはできません。
建造物損壊罪で起訴されれば刑事裁判を受けることになりますし、有罪となれば刑務所へ行く可能性も出てきます。
さらに、器物損壊罪が親告罪=被害者等による告訴(被害申告と処罰意思の表明)がなければ起訴されない犯罪であるのに対し、建造物損壊罪の起訴には告訴は必要とされていません。
今回の事例のAさんは、宿泊施設Vの窓ガラスを割って建造物損壊罪に問われています。
Aさんは窓ガラスを割って=壊しているため、建造物損壊罪や器物損壊罪にある「損壊」という行為をしていること自体に間違いはないでしょう。
しかし、窓ガラスは単なる「(他人の)物」であり、「建造物」に当たらないのではないかと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここで、建造物損壊罪のいう「建造物」とは、一般的に、その建物から取り外し可能でないもの、もしくはその建物の中で重要な役割を持っているものを指すと考えられているということに注目してみましょう。
これらに当てはまらないものは、「建造物」以外の物であるとされ、器物損壊罪が成立する可能性が高くなります。
今回の事例でAさんが割った窓ガラスは、もしかするとその性質上、宿泊施設Vという建物から取り外せるものかもしれません。
もしも取り外せるタイプの窓ガラスであれば、建造物損壊罪の「建造物」ではなく、器物損壊罪の「(他人の)物」という判断になるかもしれません(はめ込み式の窓ガラスなどの場合は、そもそも建物から取り外せない一体となっているものと判断されやすいでしょう。)
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しかし、過去の事例では、建造物損壊罪の客体である「建造物」であるかどうかは、取り外し可能かどうかだけではなく、その建造物における機能の重要性も考慮する必要があると判断されている事例があります。
例えば、今回の窓ガラスであっても、建造物の外壁と接合して、外界との遮断や防犯等の重要な役割を担っていると判断されれば、「建造物」にあたると考えられる可能性もあります(参考判例:最決平19.3.20)。
窓ガラスと一口に言っても、さまざまなタイプの窓ガラスが存在するため、「窓ガラスだから器物損壊罪」「窓ガラスだから建造物損壊罪」と簡単に判断できるものではないのです。
先ほど触れたように、物を損壊する行為によって建造物損壊罪が成立するのか、器物損壊罪が成立するのかによって、刑罰の重さなども大きく変わってきます。
だからこそ、そもそも自分にどういった犯罪が成立し得るのか、それはなぜなのか、どのような手続きが予想されるのかといったことを早い段階で把握し、適切な対応を取ることが必要です。
そのためには、刑事事件の専門家である弁護士にまずは相談してみることがオススメといえます。
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