(京都市伏見区)直接殴らなくても公務執行妨害罪?②
~前回からの流れ~
Aさんは、京都市伏見区の路肩に運転していた自動車を停めて車内で休憩していたところ、あたりを巡回していた京都府伏見警察署の警察官から職務質問を受けました。
警察官は窓の外からAさんに職務質問をしていたのですが、Aさんは職務質問を受けることが億劫になり、車を急発進させました。
その結果、運転席のドアに手をかけていた警察官を引きずって転倒させ、軽傷を負わせる事態となりました。
Aさんは公務執行妨害罪と傷害罪の容疑で京都府伏見警察署に逮捕されることとなり、その知らせを聞いたAさんの家族は、急いで弁護士に相談することにしました。
相談を受けた弁護士は、まずは事件全体の詳細を知ると同時にAさんに今後の手続きや対応をアドバイスする必要があるとして、すぐに逮捕されているAさんに直接面会することにしました。
(※令和元年8月13日京都新聞配信記事を基にしたフィクションです。)
・直接殴らなくても公務執行妨害罪
前回の記事までで、Aさんのケースは「公務員」である京都府伏見警察署の警察官が、職務質問という「職務を執行する」際に起きた出来事であるため、ここでAさんが警察官に対して「暴行又は脅迫」を加えていると認められれば、Aさんは公務執行妨害罪に問われることになるだろうということが確認できました。
しかし、今回のケースでは、Aさんは警察官に直接殴る蹴る突き飛ばすといった暴行を加えているわけではありません。
こうした場合にも公務執行妨害罪は成立するのでしょうか。
結論から言うと、こうした場合でも公務執行妨害罪は成立する可能性があります。
過去の判例では、公務執行妨害罪のいう暴行・脅迫は、公務員に向けられた有形力の行使である必要はあるが、必ずしも直接に公務員の身体に加えられる必要はなく、公務員の身体に感応しうるものであれば足りる、と解釈されています(最判昭和37.1.23)。
よく挙げられる例としては、司法巡査が現行犯逮捕の現場で差し押さえて置いていた覚せい剤のアンプルを踏みつけて壊した行為(最決昭和34.8.27)があります。
その他、公務員本人ではなく、公務員の指揮下にその手足となって働き、職務の執行に密接不可分の関係にある補助者に暴行を加えられたような場合でも、公務執行妨害罪の「暴行」であると判断された例もあります(最判昭和41.3.24)。
つまり、直接公務員を殴りつけるなどの暴行でなくとも、公務執行妨害罪は成立しうるのです。
今回のAさんのケースを見てみると、Aさんは警察官の職務質問中、車を急発進させています。
警察官に直接分かりやすく暴行を加えたわけではありませんが、警察官がそばにいて自動車に触れていると認識して車を急発進させたのであれば、警察官への有形力の行使が認められ、職務質問中の警察官へ「暴行」を加えた=公務執行妨害罪であると判断される可能性が高いでしょう。
・公務執行妨害罪と傷害罪
今回のAさんは、公務執行妨害罪を犯してしまった際に、警察官に怪我を負わせてしまっています。
ですから、Aさんには公務執行妨害罪だけでなく、傷害罪も成立することが考えられます。
刑法204条
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
Aさんは警察官に怪我をさせようと思って車を発進させたわけではないかもしれませんが、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯=結果が予想よりも重くなった場合に成立するより重い罪です。
つまり、公務執行妨害罪の「暴行」の結果、その結果が重くなり警察官に怪我を負わせていることから、Aさんには傷害罪が成立すると考えられるのです。
そして、今回の場合、Aさんは警察官に暴行を振るうという1つの行為によって、公務執行妨害罪と傷害罪という2つの罪を犯していることになります。
こうしたケースでは、「観念的競合」という考え方が用いられ、この2つの犯罪のうち最も重い刑により処断されます。
つまり、Aさんの場合では、公務執行妨害罪と傷害罪では傷害罪の法定刑の方が重く設定されていますので、傷害罪の法定刑の範囲で処罰が決められるということになります。
どういった行為が公務執行妨害罪となるのか、他にも犯罪は成立するのか、複数犯罪が成立した場合どういった処理が考えられるのか等、刑事事件については様々な疑問があることでしょう。
そうした疑問の数々は、専門家の弁護士に相談するのが一番です。
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