清水寺で開催された「日本国際観光映画祭」で協賛金を横領した疑いで、一般社団法人の代表理事が逮捕された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します
事件概要
映像祭の協賛金を横領したとして、京都府警東山署は25日、業務上横領の疑いで、千葉県、一般社団法人の代表理事の男(51)を逮捕した。
(10月25日 「京都・清水寺での催しに絡み協賛金横領、一般社団法人の代表理事を容疑で逮捕」より引用)
逮捕容疑は、清水寺で開催された(中略)に絡み、協賛金40万円を横領した疑い。
「横領した気持ちはありません」と容疑を否認しているという。
東山署によると、代表理事の男は映像祭で会計管理業務を担当。
協賛金は計550万円がいったん法人名義の口座に振り込まれた後、うち40万円が親族名義の口座に移されていた。(後略)
業務上横領罪とは
刑法は、横領罪として単純横領罪(刑法252条)、業務上横領罪(刑法253条)、占有離脱物横領罪(刑法254条)を規定しています。
単純横領罪とは、「自己の占有する他人の物を横領」する罪であり、
業務上横領罪とは、「『業務上』自己の占有する他人の物を横領」する罪です。
両罪は、横領した他人の物が『業務上』自己が占有する物であったかどうかで区別されます。
業務上横領罪の「業務」とは、金銭その他の財物を委託を受けて占有・保管することを内容とする職業もしくは職務をいうと解されています。
東山警察署によると、逮捕された代表理事の男は映画祭の会計管理業務の担当者として、企業から集まった協賛金を上記イベントの実行委員会の代表から依頼を受けて管理保管する職務についていたようです。
これが事実なら、本件は業務上横領罪で規定している業務に当たる可能性があります。
なお、占有離脱物横領罪とは、誰の占有にも属していない財物や、他人の委託に基づかずにたまたま占有するに至った他人の財物を領得する罪を言います。
例えば、電車に置き忘れられた財布や、誤って配達された郵便物(大判大正6年10月15日)などを対象とする横領罪です。
「自己の占有する他人の物」の意義
ところで、本件報道の事実関係のもとで、男は「他人の物を占有」していたと言えるのでしょうか?
窃盗罪や強盗罪、詐欺罪などにいう占有とは、物に対する事実上の支配を言います。
具体的には、金銭を鞄やポケットに入れている状態など、客観的に見てその金銭を所有しているとわかるような状態であれば占有があるとみなされます。
例えば、Aさんがポケットに千円札を入れている場合、誰が見てもAさんのポケットに入っている千円札はAさんのものだとわかるでしょう。
では、本件の場合のように銀行口座に預けられているお金はどうでしょうか。
例えば、Aさんが自身の口座に千円を預けた場合、この千円は預金先の銀行がAさんの代わりに保管することになります。
銀行はAさんが預けたお金以外にもたくさんのお金を保管しています。
このような状態では、Aさんが預けた千円について誰から見てもAさんのものだとわかるような状態だとはいえないでしょう。
ということは、Aさんが銀行に千円を預けた時点で、この千円の占有はAさんから移転しているといえます。
この考えで行くと、本件は企業から集まった協賛金をイベントの実行委員から預かり法人名義の口座で保管していたようなので、この法人名義の口座のお金には、本件の男はもちろんのこと名義人である法人ですら占有が認められないことになります。
そうなると、男には占有が認められないわけですから、法人名義の預金口座のお金は、業務上横領罪の成立要件の一つである「自己の占有する他人の物」に該当しないように思います。
しかし、この点について判例は、横領罪における「占有」とは、物に対する事実上の支配だけでなく法律上の支配も含むと解釈しています(大判大正4年4月9日)。
法律上の支配とは、法律上自己が容易に他人のものを処分しうる状態のことを言います。
実際に大審院の判決では、自分の口座に保管している金銭は、いつでも引き出して自由に処分できる状態にあるので、法律上の支配が認められると解釈しています(大判大正元年10月8日)。
したがって、自分名義の口座に保管している他人の金銭は、「自己の占有する他人の物」にあたり、これをを勝手に引き出して費消した場合には横領罪が成立する可能性があります。
本件では、協賛金を法人名義の口座に入金させ、この口座を逮捕された男が管理しているようですので、この法人名義の口座は「自己の占有する他人の物」にあたりそうです。
「横領」とは
最後に、横領とは具体的にどのような行為をすることを指すのでしょうか?
横領とは不法領得の意思を発現する一切の行為を意味します。
判例によると、横領罪における不法領得の意思とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」のことであるとしています(最判昭和24年3月8日)。
本件報道によると、男は、自らが代表を務める法人名義の口座に振り込まれた協賛金を、親族名義の口座に入金したとされています。
これが事実なら、男は本来イベントに使用するために預かっていた金銭を、その任務に背いて、あたかも自分の金銭であるかのように親族名義の口座に入金したということになるので、横領したと評価される可能性があります。
ですので、本件では、業務上横領罪が成立する可能性が高そうです。
示談交渉は弁護士にお任せください
横領罪は被害者のいる犯罪であり、被害者が被害届を出すことで警察の捜査が始まることが多い犯罪です。
業務上横領罪が疑われる事件では、警察に被害を相談する前に、会社側が本人との話し合いの機会を設ける場合が多く、被害弁償がされれば被害届を出さないと考える被害者もいらっしゃいます。
したがって、真摯な謝罪と被害弁償をした上で被害届を出さないでもらえるよう示談交渉することが重要となります。
仮に被害届が提出され捜査機関の介入が生じた場合でも、真摯な謝罪と被害弁償をしていれば、不起訴処分の獲得や罪の減軽、執行猶予付き判決の獲得につながる可能性があります。
もっとも、加害者自らが、被害者に弁償額や示談条件を直接交渉した場合、かえって被害者の神経を逆撫でする可能性があり大変危険です。
そこで、示談交渉は、交渉のプロである弁護士に一任されることをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、横領事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
示談交渉を数多く成立させてきた弁護士が被害者側と示談交渉を行うことで、不起訴処分や罪の減軽、執行猶予付き判決を得ることができる可能性があります。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。