情報漏洩の地方公務員法違反で逮捕②
~前回からの流れ~
京都府木津川市を管轄する京都府木津警察署に勤務する警察官のAさんは、ある日、10年以上前から付き合いのある知人のBさんからの連絡を受けました。
実はBさんは、京都府木津川市で起こった恐喝事件の被疑者として京都府木津川警察署に捜査されており、Aさんもそのことを知っていました。
BさんはAさんに対し、「今の俺の捜査状況を教えてくれよ。10年来の仲だろう」などと言って自分の捜査の状況を教えるよう求め、Aさんはそれに応じ、Bさんの恐喝事件の捜査状況や、Bさんの逮捕予定日を連絡しました。
しかし、それが露見し、Aさんは地方公務員法違反(秘密漏示)、Bさんは地方公務員法違反(そそのかし)の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんは、取調べの中で、Bさんから金銭を受け取っていたのではないかと疑われていますが、そういった事実はないと否認しており、家族の依頼で接見に来た弁護士にもその内容を相談しました。
(※令和元年9月24日京都新聞配信記事を基にしたフィクションです。)
・地方公務員法違反(そそのかし)
前回の記事では、地方公務員である京都府警の警察官Aさんが捜査状況や逮捕の予定をBさんに漏らしたことは地方公務員法の秘密漏示にあたり、Aさんは地方公務員法違反となるだろうということに触れました。
では、今回はBさんの行為について触れていきます。
前回の記事でも触れた通り、地方公務員法は地方公務員の守るべき規律などを定めている法律です。
Aさんは地方公務員ですから、地方公務員法で決まっている規律を破れば地方公務員法違反となることにも納得がいきます。
しかし、今回のBさんは地方公務員ではありません。
地方公務員でないBさんでも、地方公務員法違反となることは考えられるのでしょうか。
実は、地方公務員法には、以下のような条文が存在します。
地方公務員法62条
第60条第2号又は前条第1号から第3号まで若しくは第5号に掲げる行為を企て、命じ、故意にこれを容認し、そそのかし、又はそのほう助をした者は、それぞれ各本条の刑に処する。
前回の記事で取り上げた、Aさんが行った秘密漏示行為の罰則は、このうち地方公務員法60条2号に規定されています。
地方公務員法60条
次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2号 第34条第1項又は第2項の規定(第9条の2第12項において準用する場合を含む。)に違反して秘密を漏らした者
※注:地方公務員法45条1項 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
つまり、地方公務員法62条では、地方公務員の秘密漏示行為をそそのかした者にも地方公務員法違反として刑罰を科すると決めているのです。
地方公務員法62条では、その対象を地方公務員(「職員」など)と限定していないことから、たとえ地方公務員ではなくとも秘密漏示行為をそそのかせば地方公務員法違反となり、秘密漏示行為をした地方公務員と同様の刑罰の範囲で処罰されます。
「そそのかし」とはどういった意味かというと、過去の判例では、「人に対し違法行為を実行する決意を新たに生じさせるに足る慫慂行為をすることをいい、これにより、相手方が新たに実行の決意を生じて実行に出る危険性がある限り、実際に相手方が実行の決意を生じたかどうか、あるいは既に生じている決意を助長されたかどうかを問わない」(最判昭和29.4.27)とされています。
つまり、刑法でいう教唆犯(刑法61条)同様、犯罪をする気のなかった人に犯罪をする意思を起こさせる行為をすることが「そそのかし」であり、地方公務員法では教唆犯についての規定も設けているということになります。
今回であれば秘密漏示行為をするつもりのなかった地方公務員に働きかけ、秘密漏示行為をしようと思い起こさせることがこの地方公務員法62条の規定に違反することになり、BさんはAさんに秘密漏示行為をするよう持ち掛け、元々秘密漏示行為をしようとは思っていなかったAさんに秘密漏示行為をさせる意思を生じさせ、秘密漏示行為をさせていますから、この規定に違反することになるのです。
ここで注意しなければならないのは、この地方公務員法62条では、刑法でいう幇助犯(刑法62条1項)=犯罪をやりやすくする手助けをした人であっても、秘密漏示行為をした公務員と同様の刑罰の範囲で処罰されるということです。
刑法の幇助犯の場合、その刑罰は実際に犯罪をした人や一緒になって計画を立てた人(いわゆる共謀共同正犯)が受ける可能性のある刑罰よりも軽い範囲で刑罰が科されます(刑法63条)。
しかし、地方公務員法62条では、「(略)そのほう助をした者は、それぞれ各本条の刑に処する」とされているため、こうした刑罰の減軽はなされず、手助けしただけであっても実際に秘密漏示行為をした人と同様の刑罰の範囲で罰せられることになります。
このように、たとえ地方公務員でなくとも地方公務員法違反として逮捕されることは考えられます。
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次回の記事では、Aさんらがほかに疑われる可能性のある犯罪について触れていきます。