飲酒運転中の人身事故だからこそ成立し得る犯罪とは?
飲酒運転中の人身事故だからこそ成立する可能性のある犯罪とはどういった犯罪なのかということについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
京都市右京区に住むAさんは、昨年成人となった20歳です。
Aさんは、京都市右京区内で行われた成人式に参加し、同級生たちと顔を合わせた後、近くの飲食店で成人式後の同窓会を行いました。
その場でAさんは成人を祝って飲酒していたのですが、その後帰路につくために、乗って来た自動車にそのまま乗り込むと、飲酒運転をしました。
しかし、道中でAさんが通行人Vさんと接触する人身事故を起こしてしまったことから、京都府右京警察署の警察官が駆け付けました。
そこでAさんは、人身事故を起こしたことによる過失運転致傷罪と、飲酒運転をしたことによる道路交通法違反の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんの家族は、成人式後になかなか帰宅しないAさんを心配して京都府右京警察署に問い合わせたところ、どうやらAさんが逮捕されているらしいことを知りました。
驚いた家族は、ひとまず状況を把握したいと、Aさんのもとへ接見に行ってくれる弁護士を探し始めました。
(※令和4年1月11日YAHOO!JAPANニュース配信記事を基にしたフィクションです。)
・飲酒運転中の人身事故だから成立し得る犯罪
前回の記事では、飲酒運転をして人身事故を起こした多くの場合で、飲酒運転による道路交通法違反と、人身事故を起こしたことによる過失運転致傷罪が成立するということを取り上げ、飲酒運転による道路交通法違反と、人身事故を起こしたことによる過失運転致傷罪、それぞれの犯罪について着目しました。
しかし、飲酒運転中に人身事故を起こしてしまったというケースでは、その飲酒の程度や酔いの程度などの事情によっては、上記2つの犯罪ではない犯罪が成立する可能性があります。
まずは以下の条文を見てみましょう。
自動車運転処罰法第2条
次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。
第1号 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
自動車運転処罰法第3条第1項
アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する。
これらは、いわゆる危険運転致死傷罪や準危険運転致死傷罪と呼ばれる犯罪です。
前回の記事で取り上げた過失運転致死傷罪があくまで「過失」(不注意)による人身事故に成立する犯罪であったのに対し、危険運転致死傷罪は、危険運転行為という故意の行為によって人身事故を起こしたという犯罪です。
この中で、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」が危険運転行為とされており、それによって人身事故を起こした場合には、危険運転致死傷罪となることが定められています。
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」とは、道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態のことを指すとされています。
例えば、泥酔して飲酒運転している状況で、前方をきちんと見ることができない、ブレーキやアクセルを思った通りに操作できないといった状態であれば、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」と判断されやすいでしょう。
ですから、例えば今回のAさんがひどい泥酔状態で飲酒運転をしていたということが判明すれば、危険運転致傷罪として捜査される可能性もあるということになります。
さらに、飲酒運転で人身事故を起こした後、飲酒運転を隠すために人身事故後に逃亡したり、水などを飲んでアルコール濃度をごまかそうとしたりした場合には、過失運転致傷アルコール等発覚免脱罪という犯罪が成立するということも注意が必要な点です。
自動車運転処罰法第4条
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、12年以下の懲役に処する。
例えば、今回のAさんが、人身事故を起こした後、飲酒運転が発覚することを恐れてその場から離れたり、大量に水を飲んだりしていた場合には、この過失運転致傷アルコール等発覚免脱罪という犯罪が成立する可能性もあるのです。
このように、「飲酒運転をして人身事故を起こした」という概要だけでは、どういった犯罪が成立し得るのかということすらすぐにわかるものではありません。
単なる不注意で起こしてしまった人身事故とは異なり、飲酒運転中の人身事故であるという状況だからこそ、逮捕された人がどれほど飲酒し酔っていたのか、人身事故の原因はどういったものなのか、人身事故後にどういった対応をしたのかなど、実際の事件の細かな事情によって、成立し得る犯罪が左右されるのです。
事件全体の事情から詳細な事情までを把握し法律の専門的知識と合わせなければ成立する犯罪を検討することはできないからこそ、単に「飲酒運転で事故を起こして逮捕された」という状況であっても、早期に弁護士に相談し、詳細を把握した上で今後の見通しや手続きを聞いておくことが望ましいのです。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、飲酒運転による人身事故などの交通事件の刑事手続きについても、ご相談やご依頼を承っています。
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