大学職員でも収賄罪になる?
大学職員が収賄罪に問われたケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
京都府城陽市にある国立大学Xに職員として勤務するAさんは、大学キャンパスの設備に関する業務に従事しており、キャンパスの設備点検や工事をする業者を選定する立場にありました。
Aさんは、旧知の仲であった工事業者のBさんから、ブランドものの時計や家電など、あわせて70万円相当の物をプレゼントを複数回にわたって贈られました。
Aさんは、このプレゼントが、大学キャンパスの工事業者を選定する際に便宜を図ってほしいという意図で贈られたものだろうということはわかっていましたが、Bさんからプレゼントを受け取りました。
そしてAさんは、キャンパスの工事業者を選定する際にはBさんの会社から見積書を取るように取り計らっていました。
しかしその後、京都府城陽警察署の捜査によって、AさんとBさんの関係が発覚。
Aさんは加重収賄罪の容疑で京都府城陽警察署に逮捕されてしまいました。
京都府外に住んでいたAさんの家族は、突然の京都府警からの連絡でAさんの逮捕を知り、どうしてよいかと困ってしまいました。
(※令和3年8月6日京都新聞配信記事を基にしたフィクションです。)
・大学職員でも収賄罪の対象に?
世間一般のイメージでは、収賄事件は議員や役所の職員がお金をもらう汚職事件のイメージが強く、今回のAさんのような大学職員と収賄罪という組み合わせに違和感を持った方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、そもそも収賄罪という犯罪は以下のように定められている犯罪です。
刑法第197条第1項
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。
この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。
条文を見ると、収賄罪の対象となるのは「公務員」とされています。
そして、刑法上での「公務員」については、刑法第7条第1項で定義づけられています。
刑法第7条第1項
この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。
今回のAさんは、国立大学の職員です。
国立大学は文字通り、国によって運営されている大学ですから、その大学で働いている人は当然「公務員」となり、収賄罪の対象となるのです。
もちろん、冒頭で挙げた議員や役所の職員、警察官や公立学校の教師なども「公務員」となりますから、収賄罪の対象となります。
では次に、そもそも収賄罪とはどういった犯罪なのか確認してみましょう。
・収賄罪の種類
実は、収賄罪にはいくつか種類があります。
収賄罪と一口に言っても、様々な事情の違いにより成立する収賄罪の種類は異なり、刑罰の重さも変わってきます。
収賄罪のうち基本の形となるのは、「単純収賄罪」とも呼ばれる「収賄罪」です。
単純収賄罪は、先ほど条文を挙げた刑法第197条第1項前段の「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき」に成立する犯罪です。
法定刑は5年以下の懲役とされています。
単純収賄罪は、公務員の職務に関して賄賂をもらったり、賄賂の要求や約束をしたりしただけで成立することに注意が必要です。
賄賂の見返りとしてなんらかの行為をしていなくとも、賄賂をもらうだけであっても、場合によってはその要求や約束をしただけで賄賂を実際にはもらっていない状態であっても犯罪となってしまいます。
次に定められているのは、単純収賄罪と同じ刑法第197条第1項の条文の後段に定められている、「受託収賄罪」です。
受託収賄罪は、先ほど触れた単純収賄罪に加えて「請託を受けたとき」に成立する犯罪です。
つまり、賄賂を受け取ったり賄賂の要求・約束をしたりした(単純収賄罪)上で、賄賂を渡してきた(渡してくる予定の)人からの頼みごとを受けてそれを了承したときには受託収賄罪が成立することになります。
賄賂を受けるだけの単純収賄罪とは異なり、具体的な要求を承諾しているところが受託収賄罪の特徴です。
具体的な要求とその承諾があることで単純収賄罪よりもさらに重い犯罪であると考えられており、法定刑は「7年以下の懲役」となっています。
そして、こうした収賄罪を犯したことに加え、そのために不正な行為をしたり、するべき行為をしなかった時には刑法第197条の3に定められている「加重収賄罪」が成立します。
例えば、先ほど挙げた受託収賄罪では具体的な依頼を受けて賄賂を受け取る行為が犯罪に当たりましたが、こうした状況で賄賂を受け取って実際に依頼されたことを実行したような場合に加重収賄罪となるのです。
具体的に言えば、便宜を図ってほしいと頼まれて賄賂を渡された公務員が、実際にその業者に便宜を図る行為をしたというケースがこの加重収賄罪にあたります。
収賄罪の種類としては、他にも事前収賄罪(刑法第197条第2項)、第三者供賄罪(刑法第197条の2)、加重収賄罪(刑法第197条の3)、事後収賄罪(刑法第197条の3第3項)、あっせん収賄罪(刑法第197条の4)がありますが、収賄事件ではここまでに挙げた単純収賄罪や受託収賄罪、加重収賄罪が問題となっているケースが多いでしょう。
収賄罪は種類も多く、実際に成立する犯罪と持っているイメージとは異なる部分もあるかもしれません。
しかし、こうしたギャップがあるからこそ、早めに専門家の力を借りることが大切です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、収賄事件を含む刑事事件全般を取り扱っています。
複雑になりがちな収賄事件にも対応可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。