直接お金を奪わなくても強盗罪に?

直接お金を奪わなくても強盗罪に?

直接お金を奪わなくても強盗罪になるのかということについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

~事例~

Aさんは、京都市東山区にあるVさん宅に忍び込むと、Vさんのクレジットカードを盗み出しました。
そして、AさんがVさん宅から立ち去ろうとした際に、帰宅したVさんに出くわしました。
Aさんは、Vさんにナイフを突きつけると、盗み出したクレジットカードの暗証番号を聞き出し、その場を去りました。
その後、Vさんの通報によって京都府東山警察署の警察官が捜査を開始。
Aさんは、京都府東山警察署強盗罪の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんは、「お金を脅して奪ったわけでもないのに強盗罪になるのか」と疑問に思い、弁護士に相談してみることにしました。
(※この事例はフィクションです。)

・強盗利得罪

強盗というと、金銭や財物を脅し取るイメージが強いでしょう。
しかし、強盗罪には刑法第236条第1項で定められた暴行や脅迫を手段として財物の占有を得る形態のほかに、同法同条第2項の財産上不法の利益を得る類型が存在します。
この第2項の規定に該当する強盗罪を特に2項強盗罪強盗利得罪と呼ぶこともあります。

刑法第236条
第1項 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
第2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

財産上の利益とは、人の財産の中で財物を除くすべてをいうとされます。
現在、財物は有体物(三態をとって空間の一部を占める物)であるという有体物説が通説となっており、この解釈に従うと、財産上の利益は有体性をもたない無形の財産ということになります。
財産上の利益に当たるものとしては、債権を取得すること、債務の履行を免れること、財産的情報、ノウハウ、企業秘密、重要なデータを取得することなどが挙げられます。

大まかにいえば、強盗罪は、刑法第236条第1項で有形の財産=「財物」に対する強盗行為を、同法同条第2項で無形の財産に対する強盗行為を規制しているということになります。
つまり、よく想像される物理的に金品を奪っていく強盗が第1項の強盗罪、そうではなく利益などの無形の財産を得る強盗が第2項の強盗罪=2項強盗罪や強盗利得罪と呼ばれる強盗罪ということになるのです。

今回のケースでは、AさんはVさんのクレジットカードを盗んだ上で、帰宅したVさんを脅して暗証番号を聞き出しています。
Aさんが盗み出したクレジットカードは有体物であり財産的価値もあるでしょうから「財物」に当たるでしょう。
では、Aさんが脅迫を用いてVさんから聞き出した暗証番号はどうなるのでしょうか。

暗証番号は物として実態があるわけではないため、「財物」には当たらないと考えられます。
そして、クレジットカードや銀行口座などの暗証番号は、それだけでは何の役にも立たない財産的価値のないものといえます。
しかし、暗証番号はクレジットカードによる決済や銀行からの払戻しを受けるために役立つ情報であり、このように特定の状況下で一定の財物を取得するための手段としての価値をもっているため、これを財産上の利益となし得るかどうかが争われています。

過去の高裁判例では,今回のケースと似た事案で、キャッシュカードを窃取した被告人が被害者に包丁を突き付けて同人名義の預金口座の暗証番号を聞き出したという事件について、口座から預金の払戻しを受ける地位という財産上の利益を得たとして強盗利得罪の成立を認めたものがあります(東京高裁判平成21.11.16)。
この高裁判例が強盗利得罪の成立を認める判断は、行為者がいまキャッシュカードを有し、ATMが付近に存在するという状況があり、そのことによってはじめて暗証番号に関する情報が具体的な利益性をもつに至っているというもので、単に暗証番号を聞き出すことが直ちに財産上の利益を得ることと評価されるわけではないため、注意も必要ですが、こういった判断がされる可能性もあるということです。

今回のケースでは、Aさんは既にVさんのクレジットカードを有しており、その状態で暗証番号を聞き出していることから、高裁判例の考えによって強盗利得罪の成立が認められる可能性があります。

・事後強盗罪

今回のケースのAさんとVさんの具体的な状況によっては、強盗利得罪が成立しなかったとしても、事後強盗罪(刑法第238条)が成立する可能性があります。

刑法第238条
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

事後強盗罪は窃盗犯人が窃取した財物を取り返されたり、捕まることを避けたり、あるいは犯罪の痕跡を隠滅したりするために暴行・脅迫を行った場合に成立する罪で、その法定刑は強盗罪と同じく5年以上の有期懲役です。

今回のケースでは、AさんはVさんにナイフを突きつけ脅していますが、この脅迫行為が、すでに盗んでいたクレジットカードを取り返されたり、捕まることの回避や罪証隠滅のために行われたとすると、クレジットカードを盗んだ行為と合わせて事後強盗罪に当たるとされるおそれがあるのです。

暴行・脅迫によって財物でないものを手に入れたとき、それが財産上の利益といえるかどうかは罪名および科刑上大きな違いを生みます。
どの行為がどの犯罪になるかということも含めて、その分析には刑事事件に関する専門的な法的知識が必要となります。

さらに、今回のAさんのケースのように逮捕・勾留を伴う捜査が行われている場合には、身体解放のための弁護活動も考えられますが、そのためには刑事事件に強い弁護士にいち早く相談し,適切な対応を行っていくしかありません。
対応が遅れると刑事手続が進行し、取り返しのつかない事態に陥ってしまう可能性もあります。
どういった場合にせよ、刑事事件の当事者となってしまったら、早期に弁護士に相談してみることが重要でしょう。

刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、弁護士による初回無料法律相談だけでなく、逮捕・勾留中の方に向けた初回接見サービスも受け付けています。
強盗事件などの重大な刑事事件についてのご相談・ご依頼も受け付けていますので、まずはお気軽にお問い合わせください(0120-631-881)。

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