放火罪の種類~2つの建造物等放火罪
放火罪の種類のうち、特に2つの建造物等放火罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
京都市中京区の会社に勤めるAさんは、同寮のVさんを恨んでいました。
ある日、AさんはどうしてもVさんへの恨みを抑えることができなくなり、会社の駐車場に停めてあったVさんの自動車のタイヤ付近に火をつけました。
しかし、火がつけられてすぐに駐車場を警備していた警備員が火に気付き消し止めたため、火は燃え上がることなく、Vさんの自動車のタイヤを焦がした程度でした。
その後、Vさんからの被害届を受けて捜査をしていた京都府中京警察署がAさんの犯行であることを突き止め、Aさんは器物損壊罪の容疑で逮捕されました。
「Aさんが火をつけて逮捕された」と聞いたAさんの家族は、Aさんが容疑をかけられている罪名が放火罪ではなく器物損壊罪であることを不思議に思い、今後の手続きなども含めて弁護士に相談してみることにしました。
(※この事例はフィクションです。)
多くの方のイメージでは、「火をつけたら放火罪が成立する」という印象が強いのではないでしょうか。
しかし、放火罪とひと口にいっても、実は放火罪の中にも種類がある上、さらにただ「火をつけた」ということだけで放火罪が成立するわけではありません。
今回から複数回に分けて、放火罪とAさんの逮捕容疑でもある器物損壊罪について見ていきます。
・色々な「放火罪」~「建造物等」への放火
刑法には、単純な「放火罪」という犯罪は存在しません。
放火され、焼損した対象がどういったものだったかによって、どういった「放火罪」となるのか種類が分かれるのです。
刑法に定められている放火罪は、現住建造物等放火罪・非現住建造物等放火罪・建造物等以外放火罪です。
刑法第108条(現住建造物等放火罪)
放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法第109条(非現住建造物等放火罪)
第1項 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処する。
第2項 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処する。
ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。
刑法第110条(建造物等以外放火罪)
第1項 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
第2項 前項の物が自己の所有に係るときは、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
刑法第108条・第109条に定められている放火罪は、どちらも「建造物等」に対して放火し、焼損した場合に成立する放火罪です。
この2つの放火罪は、放火・焼損した「建造物等」に放火時に人がいたか若しくは住居として使用されていた場合(=現住建造物等放火罪)か、放火・焼損した「建造物等」に放火時に人がいない上に住居としても使用されていなかった場合(=非現住建造物等放火罪)かで分かれます。
例えば、マンションに放火し焼損した場合、マンションは人の住居として使用されている建造物ですから、現住建造物等放火罪となります。
一方、閉店後で誰もいない飲食店に放火し焼損した場合、飲食店は住居として使用されていない上に誰もいない状態であることから、非現住建造物等放火罪の成立が考えられるということになります。
そして、この「建造物等」への放火罪は、どちらも建造物等に火をつけるだけで成立するものではありません。
これらの放火罪が成立するには、放火して「焼損」することが必要とされています。
「焼損」とは、火が媒介物を離れて目的物に移り、独立して燃焼作用を継続しうる状態に達した時点であるとされています(最判昭和23.11.2)。
つまり、家を燃やそうとして火をつけたとしても、火が家に燃え移って独立して燃え続ける程度にならなければ放火罪の成立には満たないということになるのです(その場合、放火未遂罪の成立や、態様によっては別罪の成立も考えられます。)。
「建造物等」への放火罪は、放火罪の中でも重い刑罰が定められており、特に現住建造物等放火罪は死刑も含まれている重大犯罪です。
だからこそ、もしも自身や家族が当事者となってしまったら、刑事事件に強い弁護士のサポートを受けることをおすすめいたします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、刑事事件専門の弁護士が、重大犯罪の弁護活動についてのご相談・ご依頼も承っています。
まずはお気軽にご相談ください。
次回の記事では、建造物等以外放火罪について取りあげます。