SNSを利用した脅迫事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
◇SNSで脅迫◇
Aさんは、ファンとして応援していた京都市左京区で活動しているアイドルのVさんが熱愛報道をされたことに腹を立て、VさんのSNSアカウントに、「ファンの怒りを思い知らせてやる。無事でいられると思うな」「1人で出歩く時は気を付けろ」などとコメントを送りました。
Aさんとしては、「SNSは匿名だし、大事になることもないだろう」という軽い気持ちで行ったことでしたが、後日、京都府川端警察署の警察官がAさん宅を訪れ、「SNSのコメントの件で話を聞きたい。脅迫罪の容疑がかかっている」と警察署に任意同行を求められました。
(※この事例はフィクションです。)
SNSを利用した脅迫罪
スマートフォンの普及などにもより、SNSの発達した時代になりました。
この記事を読んでいる皆さんの中にも、何かしらのSNSを利用しているという方も多いのではないでしょうか。
今回は、そのSNSから刑事事件に発展した事例を取り上げます。
脅迫罪は、刑法第222条に規定されている犯罪です。
刑法第222条
第1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
脅迫罪という犯罪名から、「誰かを脅せば脅迫罪になる」とイメージされがちですが、実はそう単純ではないことに注意が必要です。
脅迫罪が成立する条件を確認してみましょう。
まず、「脅迫」の種類について、脅迫罪の条文では、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨」(刑法第222条第1項)か、「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨」(刑法第222条第2項)と決められています。
つまり、たとえ脅し文句であっても、この挙げられている種類に該当しないものである場合、脅迫罪には該当しないということになるのです。
例えば、「殺すぞ」という脅し文句は、その人の生命に対して害悪を加える内容ですから、脅迫罪のいう「生命…に対し害悪を加える旨」であると言えます。
しかし、「お前の恋人を殺すぞ」という脅し文句は、本人の「生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害悪を加える旨」(刑法第222条第1項)でもありませんし、「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨」(刑法第222条第2項)でもありません。
そして、この「害悪」は、一般に人を畏怖させる程度のものでなければならず、「害悪」の発生は脅した側で現実に左右できるものでなければなりません。
具対的に言うと、先ほど例に挙げた「殺すぞ」という生命に対する害悪については、それが実現するかどうかを脅した側で決めることができます。
しかし、「天罰がくだる」といった内容では、天罰がくだるかどうかを脅した側が決めることはできませんから、脅迫罪は不成立となる可能性が出てくることになります(前後の状況や事情によっては脅迫罪に当てはまる可能性もあるため、後述のように弁護士に相談してみることが望しいでしょう。)。
このように、脅迫罪の成立には、単に「脅した」というだけでは足らず、その種類や程度といった条件が当てはまっていることが必要です。
もしも自分のしてしまった行為が脅迫罪に当たるのか、脅迫事件を起こしたと捜査されているが自分のどの行為がどう脅迫罪に当たるとされているのか、と不安に思われている方がいれば、早めに専門知識のある弁護士に相談することが効果的です。
犯罪成立の条件に当てはまるのかどうかは、具体的な事件の事情と判例や学説とを照らし合わせて検討しなければなりません。
脅迫事件に限らず、個々の刑事事件の事情によっては似たような事例であっても判断が異なることがあるため、専門家である弁護士にアドバイスを求めることが有効なのです。
さて、今回のAさんですが、SNSにコメントをしてそこから脅迫罪の容疑をかけられるに至っています。
コメントの内容を見てみると、「無事でいられると思うな」「1人でいるときは気を付けろ」といった内容になっています。
直接的にVさんを傷つけると明示しているわけではありませんが、「生命、身体」に何かしらの害が及ぶのではないかと想像もできる内容ですから、脅迫罪に該当すると判断されてもおかしくないでしょう。
脅迫罪のいう「告知」の手段は特に決められていませんから、SNSでコメントをしたことでも脅迫罪となりえます。