捜索差押時にパスワード聞き出し黙秘権侵害?②
~前回からの流れ~
Aさんは京都市上京区内を走る電車内で、自身のスマートフォンを用いて乗客であるVさんのスカート内を盗撮しました。
VさんはAさんから盗撮されていることに気付いたため、Aさんが停車駅で降りようとした際に「この人盗撮してました」と大声で叫びました。
慌てたAさんはその場から逃走しましたが、事件の3日後、Aさんの自宅に京都府上京警察署の警察官が、捜索差押許可状を持ってやって来ました。
警察官は捜索差押許可状に基づき、Aさんの携帯電話を差し押さえました。
しかし、Aさんの携帯電話にはロックがかかっていたため、警察官はAさんに対しパスワードを質問し、Aさんは警察官に正直にパスワードを教えました。
警察官はそのパスワードをも用いてAさんの携帯電話のロックを解除し、Aさんの携帯電話内に多数の盗撮画像が保存されていることを発見しました。
そしてそれらの盗撮画像や動画を詳しく調べたところそのうちの1本の動画がVさんのスカート内を撮影していた物であることが判明しました。
本件でパスワードを教えた際にはAさんに対する警察官からの黙秘権の告知はありませんでした。
この直後に、警察官は逮捕状をAさんに示し、Aさんは京都府迷惑防止条例違反で通常逮捕されました。
Aさんの家族は直ちに刑事事件専門の弁護士事務所に初回接見を依頼し、接見に来た弁護士にAさんは上記経過について相談しました。
(この事案はフィクションです)
・パスワードを聞く際に黙秘権を告知しないことは違法?
前回の記事では、なぜパスワードを聞く際に黙秘権告知がないことが問題となりうるのか、そもそも黙秘権とは何か、といった点に触れていきました。
今回の記事では、具体的に今回の事案に沿って検討を行います。
本件のように、捜索差押中に黙秘権の告知を行わずパスワードを聞き出した事案につき裁判例があります(東京高裁平成31年2月19日決定)。
以下、その裁判例から引用を行います。
「そこで検討すると、上記のような捜索差押えの現場で警察官が質問する際に黙秘権告知を義務付ける規定はない上、上記質問の際、被告人が実際に逮捕されるなどして外部との連絡を絶たれて供述を迫られたり、警察官が被告人に供述義務があると積極的に誤信させたりした状況はなかったのであるから、本件捜査が違法であるとはいえず所論は採用できない」
裁判例では以上のように述べて、黙秘権の告知を行わなかったことは違法ではなかったと結論付けています。
したがって、本件のAさんのような場合でも違法を主張しても、違法性は認められない可能性が高いと思われます。
しかしながら、この裁判例でパスワードを聞き出すことが違法になる場合にも言及することには注目する必要があります。
すなわち、パスワードを聞き出す状況が「逮捕されるなどして外部との連絡を絶たれた状況」であるとか、「警察官が被告人に供述義務があると積極的に誤信させたりした状況」がある場合には、黙秘権を告知せずにパスワードを聞き出すことが違法であると判断される場合があることが考えられます。
本件に当てはめれば、聞き出した状況が何時間も周囲を複数人の警察官に囲まれ実質的に見れば逮捕されているのと変わらない状況であったり、一度はAさんがパスワードを答えることを拒否したにもかかわらず、警察官から「パスワードは伝えなければならない義務がある」と強く迫って言わせた場合には、黙秘権を告知せずパスワードを聞き出したことが違法と判断される可能性もあるといえます。
よって、黙秘権を告知しないことが違法になるかは、聞き出した際の警察官とのやり取りや当時の状況が重要であるということになります。
・初回接見の重要性
本件では、逮捕されたAさんのもとに直ちに弁護士が接見に向かっています。
逮捕されてから1回目の接見のことを初回接見といいます。
逮捕されれば、外部との連絡を遮断され、捜査機関の下に身体を置かれることになります。
したがって、初回接見は多くの場合逮捕された方が最初に外部の人と接触を持つ機会になります。
初回接見では、弁護士が事実を聴き取った上で、被疑者に黙秘権などの権利を説明します。
法律の専門家である弁護士が直ちに逮捕された方に面会することで被疑者を安心させるとともに、被疑者が適切に捜査機関に対し対応できるようにアドバイスをすることができます。
本件でも、弁護士が初回接見でAさんに面会したことで、黙秘権の説明を行い、Aさんが黙秘権を告知されないままパスワードを聞き出された違和感に気付くことができました。
本件では、違法と判断される可能性が低いケースでしたが、仮に具体例で挙げた違法と判断される可能性が高いケースでは迅速な証拠収集も重要になってきます。
警察官の対応が問題になるケースでは、直ちに逮捕された方から事情を聴き取った上で証拠化することが必要になります。人の記憶はどんどん薄れるのでスピードが重要になります。
刑事事件専門の弁護士であれば、捜査の違法が問題になるケースについても経験が豊富であり、被疑者から丁寧な聞き取りを行い、的確なアドバイスをすることができます。
また違法捜査が疑われる場合であれば、直ちに証拠化に動き、その後問題になる場合に備えることもできます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、初回接見サービスのお問い合わせ・受付を24時間365日いつでも受け付けております(0120-631-881)。
土日祝日でも対応を行っていますから、逮捕直後から弁護士を手配することができ、今後の刑事手続きへ備えることが可能です。
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