捜索差押時にパスワード聞き出し黙秘権侵害?①
Aさんは京都市上京区内を走る電車内で、自身のスマートフォンを用いて乗客であるVさんのスカート内を盗撮しました。
VさんはAさんから盗撮されていることに気付いたため、Aさんが停車駅で降りようとした際に「この人盗撮してました」と大声で叫びました。
慌てたAさんはその場から逃走しましたが、事件の3日後、Aさんの自宅に京都府上京警察署の警察官が、捜索差押許可状を持ってやって来ました。
警察官は捜索差押許可状に基づき、Aさんの携帯電話を差し押さえました。
しかし、Aさんの携帯電話にはロックがかかっていたため、警察官はAさんに対しパスワードを質問し、Aさんは警察官に正直にパスワードを教えました。
警察官はそのパスワードを用いてAさんの携帯電話のロックを解除し、Aさんの携帯電話内に多数の盗撮画像が保存されていることを発見しました。
そしてそれらの盗撮画像や動画を詳しく調べたところそのうちの1本の動画がVさんのスカート内を撮影していた物であることが判明しました。
本件でパスワードを教えた際にはAさんに対する警察官からの黙秘権の告知はありませんでした。
この直後に、警察官は逮捕状をAさんに示し、Aさんは京都府迷惑防止条例違反で通常逮捕されました。
Aさんの家族は直ちに刑事事件専門の弁護士事務所に初回接見を依頼し、接見に来た弁護士にAさんは上記経過について相談しました。
(この事案はフィクションです)
・パスワードを聞き出したことは黙秘権侵害?
本件で法的に問題になることはいくつかありますが、この記事では警察官が本件のような場合に、黙秘権の告知を行わずにパスワードを聞きだしたことが違法かについて検討します。
まず、パスワードを聞き出したことの違法性が問題になる理由について説明します。
刑事裁判では「違法収集証拠排除法則」というルールがあります。
詳細な説明は省きますが、簡単に言えば捜査機関が違法に集めた証拠は、刑事裁判において事件の証拠として使えない場合があるというルールです。
現に裁判で「違法収集証拠排除法則」により、ある証拠が裁判での証拠として認められなかったために無罪になったケースもあります。
ここで、本当はある人が犯人であることを示す証拠があるのに、その証拠を裁判で使えないから処罰されないというのは正義に反すると思われる方がいるかもしれません。
しかし、日本の刑事事件では、適正なルールに基づいた捜査を経ているからこそ適正に処罰できるという考えに基づいており、違法に集めた証拠は裁判で証拠として使うことができない場合があるというルールが用いられているのです。
本件のような盗撮事件では、盗撮した画像や動画が重要な証拠となります。
したがって、これらが証拠として使えるかどうかはAさんの処分において重要な意味を持ちます。
ですから、本件でAさんが盗撮した画像や動画を発見した過程であるパスワードの聞き出し行為が違法かどうかが問題となるのです。
・黙秘権の告知
まず、一般的な黙秘権について説明します。
黙秘権は簡単に言えば、自分の意思に反して発言しなくてもよいという権利です。
憲法38条1項でも「何人も自己に不利益な供述を強要されない」とあり、黙秘権は憲法でも国民に保障された重要な権利であるといえます。
例えば、今回のパスワードを伝えることも、言いたくないとして黙秘権を行使し、何も言わないこともできたわけです。
そしてこの権利を保障するために、被疑者を取り調べる場合には黙秘権を告知しなければならないことが刑事訴訟法で定められています(刑事訴訟法198条2項)。
仮に黙秘権を告知しなければいけない場合に、黙秘権の告知がされていない場合には、被疑者の黙秘権を侵害したとして違法な捜査であるといえます。
本件では、取り調べの場面ではなく捜索差押の場面での黙秘権の告知が問題となっています。
本件のような場面で黙秘権を告知していないことが違法といえるかどうかにつき、次に検討していくことにします。
黙秘権という言葉は比較的一般に知られている言葉ですが、それが一体どういった権利でどのように使われるのか、また、どのような場合に侵害といえるのかはなかなか浸透していません。
だからこそ、少しでも疑問や不安を感じたら、刑事事件に詳しい専門家、弁護士に相談してみましょう。
刑事事件専門の弁護士が所属する弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、24時間いつでもお問い合わせが可能です(0120-631-881)。
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