たき火から燃え移って失火罪①
たき火から燃え移って失火罪となったケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
京都市中京区に住んでいるAさんは、自宅の裏に空地を所有していました。
Aさんは、落ち葉や枯葉を集めてその空地でたき火をし、簡単に水をかけ、火が見えなくなったために深く確認することもなく帰宅しました。
しかし、Aさんが消火できたと思っていたたき火の火が消え切っておらず、空地内に建っていたAさん所有の小屋に燃え移り、火事となってしまいました。
通報により消防車が駆け付け、他の家に火が燃え移る前に消し止められ、当時小屋には誰もいなかったためけが人もいなかったものの、Aさんは京都府中京警察署に呼ばれ、話を聞かれることになりました。
Aさんは、自分がどのような犯罪にあたる可能性があるのか、どういった処罰を受ける可能性があるか不安になり、刑事事件に強い弁護士に相談してみることにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・失火罪
今回のAさんに成立する可能性のある犯罪としては、刑法に規定のある失火罪という犯罪が挙げられます。
(なお、落ち葉や枯葉をたき火で処理する行為は、廃掃法違反等の特別法違反の成立も考えられるところですが、今回の記事は失火罪のみに焦点を絞って取り上げていきます。)
刑法116条(失火罪)
1項 失火により、第108条に規定する物又は他人の所有に係る第109条に規定する物を焼損した者は、50万円以下の罰金に処する。
2項 失火により、第109条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第110条に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。
失火罪の「失火」とは、過失によって出火させることを指します。
つまり、火気を取り扱う上で不注意・落ち度があって出火させてしまった場合に「失火」となるのです。
詳しく言えば、出火して目的物を焼損する事情があるときに、その事情を認識できたのに認識しなかったり、その事情から出火の危険性がないと軽々しく信じてしまったりして、出火防止のために適切な手段をとらずに出火させてしまったという場合が、失火罪の「失火」です。
そして、失火罪は失火によって何かを「焼損」することで成立しますが、「焼損」とは一般的に、「火が媒介物を離れ目的物に写し、独立して燃焼作用を継続しうる状態に達」すること(最判昭和23.11.2)とされています。
今回のAさんは、たき火をしてその火を消したと思い込んでいたものの、実は火を消しきっていなかったことから小屋を燃やしてしまっています。
これは、たき火の火が消え切っていないという、小屋などの周辺の物を焼損させてしまう可能性のある事情があったにも関わらず、確認をせずに=認識できたにも関わらず認識せずに、たき火から出火することはないと信じてさらなる消火をせずに出火させてしまったことによります。
そして、小屋は家事になるほど燃えてしまっていますから、「焼損」したものといえるでしょう。
ですから、今回のAさんは「失火」によって小屋を「焼損」したと考えられます。
ここで、失火罪は焼損した物が何かによって該当する条文が異なります。
条文ごとに詳しく見ていきましょう。
まずは、刑法116条1項です。
「第108条に規定する物」とは、「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑」を指します。
さらに、「第109条に規定する物」は「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑」を指しています。
つまり、刑法116条1項の失火罪は、失火によって「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑」又は他人の所有する「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑」を焼損してしまった時に成立するのです。
今回のAさんが焼損させてしまったのは空地にある小屋であり、当時無人であったことから、「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑」(=「第109条に規定する物」)といえそうですが、この小屋はAさんの所有する小屋であり、「他人の所有に係る」物ではないため、Aさんには刑法116条1項の失火罪は当てはまらなそうです。
では、刑法116条2項の方の失火罪には当てはまるのでしょうか。
次回の記事で詳しく取り上げていきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部はこういった失火事件のご相談も承っています。
刑事事件専門だからこそ、聞きなじみのない犯罪に対しての対応も可能です。
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