選挙ポスターを破って器物損壊罪・公職選挙法違反①
京都市山科区に住んでいるAさんは、京都市の市議会選挙に出ている候補者のうち、Vさんのことを嫌悪していました。
そして選挙期間中、Aさんの通勤途中の道路脇に、いくつか選挙ポスターを貼っている看板があることに気が付きました。
Aさんは、Vさんの選挙ポスターを目にするのが嫌になり、通勤途中に貼ってあったVさんの選挙ポスターを合計5枚破り捨てました。
後日、Vさんが選挙ポスターが破り捨てられていることに気づき、京都府山科警察署に被害を届け出たことから捜査が開始され、防犯カメラの映像などによりAさんの犯行が発覚、Aさんは公職選挙法違反の容疑で逮捕されることとなりました。
(※この事例はフィクションです。)
・選挙ポスターと器物損壊罪
上記事例のAさんは、選挙ポスターを破り捨てたことで逮捕されていますが、ここで逮捕容疑が公職選挙法違反であることに疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。
物を壊す事件といえば、刑法上の器物損壊罪が適用されるイメージが強いかもしれません。
刑法261条(器物損壊罪)
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
貼ってある選挙ポスターは「他人の物」ですし、それを破り捨てることは物の効用を害することになりますので「損壊」にも当たることになるでしょう。
こうしたことからも、選挙ポスターを破り捨てることは器物損壊罪になり、その罪によって逮捕されたり捜査されたりするのではないでしょうか。
もちろん、器物損壊罪に該当することに間違いはないのですが、実は公職選挙法という法律で、こうした選挙に関わる妨害行為について規定があるのです。
・選挙ポスターと公職選挙法違反
公職選挙法は、簡単に言えば選挙制度の確立やその選挙の自由・公正を守るための法律です。
そして公職選挙法の中には、以下のような条文があります。
公職選挙法225条1項
選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
2号 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもって選挙の自由を妨害したとき。
このうち「文書図画」には、社会一般で用いられる「文書図画」よりも非常に広い範囲のものが含まれるとされています。
公職選挙法の「文書図画」の例としては、書籍や新聞、挨拶状、ポスター、看板、プラカードなどが挙げられます。
そして「毀棄」とは、物を壊したり捨てたりすることでその物の効用を害することです。
ですから、選挙期間中に選挙ポスターを破り捨てるということは公職選挙法の「文書図画を毀棄し」ていることに当てはまります。
そしてこうした方法によって選挙の自由を妨害したと認められれば、いわゆる「自由妨害」をしたとして、公職選挙法違反となるのです(この公職選挙法違反を「自由妨害罪」と呼ぶこともあります。)。
今回のような選挙ポスターを複数枚破り捨てるという行為は、選挙運動の自由を害すことに繋がると考えられますから、公職選挙法違反となりうるのです。
そして、刑法と公職選挙法を考えた時、公職選挙法は選挙の時に関しての法律であり、いわゆる「特別法」の位置に当たることから、公職選挙法違反が成立するような場合にはこちらが優先して成立する、ということになるのです。
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次回の記事では、器物損壊罪と自由妨害による公職選挙法違反の2つの違いを詳しく取り上げます。