ごみの持ち去りで刑事事件③占有離脱物横領罪
ごみの持ち去りから刑事事件に発展したケースで、特に占有離脱物横領罪の容疑をかけられた場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
Aさんは、京都府宇治市に住んでいる22歳の学生です。
ある日、Aさんは近所のごみ捨て場に自転車が捨てられているのを発見しました。
見たところ、それはまだ使えそうな自転車であったうえ、有名な自転車ブランドの物でした。
そこでAさんは、「拾って行って自分で使おう。捨てられている物なのだから問題ない」と考え、自転車を持ち帰ると使用していました。
しかし、Aさんが自転車を使っていたところ、巡回中の京都府宇治警察署の警察官に声をかけられました。
警察官曰く、Aさんの乗っていた自転車が盗難届の出ている自転車であるとのことです。
後日京都府宇治警察署で話を聞かれることとなったAさんでしたが、その前に弁護士に相談し、捨ててあった自転車を拾っただけなのに何か問題になるのか聞いてみることになりました。
(※この事例はフィクションです。)
・ごみを持ち去って占有離脱物横領罪に?
前回までの記事で、ごみの持ち去りで成立しうる犯罪について、各自治体の条例違反や窃盗罪などに触れましたが、もう1つ成立しうる犯罪があります。
それは、刑法に定めのある占有離脱物横領罪です。
刑法254条
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
前回の記事で取り上げた通り、誰かがその物を事実上支配・管理している状態である「占有」のある他人の物を無断で自分の物としてしまえば、窃盗罪となってしまいます。
しかし、この世の全ての物が誰かの支配・管理下にあるわけではない、つまり、「占有」のない物があることはお分かりいただけるでしょう。
誰もその物を支配・管理していない=「占有」のない状態である他人の物=「占有離脱物」について自分の物としてしまった場合に成立するのが、この占有離脱物横領罪なのです。
以下で詳しく見ていきましょう。
まず、占有離脱物横領罪が対象としている物は、「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物」です。
「遺失物」とは、その物を占有(支配・管理)していた人の意思によらずにその物が占有していた人の支配・管理から離れてしまい、さらにまだ誰の支配・管理下にもない状態の物を指します。
「遺失物」の代表例としては、道端に落ちている落し物が挙げられます。
道端に落ちていた落とし物をいわゆる「ネコババ」したような場合には、この罪の成立が考えられます(この場合、罪名としては占有離脱物横領罪ではなく遺失物横領罪と呼ばれることが考えられます。)。
そして、「漂流物」とは、水中にある「遺失物」のことを指します。
さらに、「その他占有を離れた」とは、その物を支配・管理していた人の意思に基づかずにその人の支配・管理下から離れたということを指します。
ですから、占有離脱物横領罪の対象となる物は、簡単に言えば「支配・管理していた人のもとをその人の意思によらずに離れてしまった他人の物」ということになります。
占有離脱物横領罪は前述の対象となる物を、「不法領得の意思」に基づいて自分の支配・管理下に置く=「横領」することで成立するとされています。
「不法領得の意思」とは、大まかに説明すると、権限がないにもかかわらず自分の物でないとできないような処分をする意思のことを指します。
今回のAさんの事例を考えてみましょう。
Aさんが持ち帰った自転車は、盗難届のあった自転車でした。
盗難届を出しているということは、自転車の持ち主はまだ自転車は自分の物であると考えていると思われますから、自転車は持ち主の意思に反してその支配・管理下から離れてしまった持ち主の物=占有離脱物横領罪にいう「占有を離れた他人の物」でしょう。
Aさんはその自転車を自分の物としてしまったわけですから、占有離脱物横領罪の「横領」にあたる行為をしてしまったと考えられます。
これらのことから、Aさんは占有離脱物横領罪の容疑をかけられてしまったと考えられるのです。
なお、盗難届が出ていないごみ捨て場に捨ててあった単なるごみであっても、持ち帰れば占有離脱物横領罪が成立する可能性があることにも注意が必要です。
例えば家電や空き缶といった資源ごみ・リサイクルごみ等は、リサイクルなどの使い道があるものです。
自治体ではこういったごみを活用する事業等がある場合もあり、決められた場所に捨て、決められた業者が回収・活用することになっているところも多いです。
そうした場合には、それらのごみは決められたごみ捨て場に捨てられた時点で自治体の物=「他人の物」となることもあり、事実上の支配・管理がないからといってそれを勝手に自分の物としてしまえば、占有離脱物横領罪となる可能性が出てくるということなのです。
今まで見てきたように、ごみの持ち去りであっても刑事事件となってしまう可能性はあります。
軽く考えてしてしまった行動が思わぬ刑事事件のきっかけとなってしまうこともありますから、そうなった場合には遠慮なく専門家である弁護士のサポートを求めましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、刑事事件専門の弁護士によるサービスを土日祝日問わず受け付けていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。