物品を水増し発注し、自身の勤務する病院に損害を与えた事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
事件概要
京都府南警察署は、京都市中京区に住む医師の男(47)を背任罪の疑いで逮捕した。
男は、知人の経営する医療機器メーカーに、自身が勤務する京都市南区にあるK病院に対して水増し請求させて、病院におよそ2470万の損害を与えたとして背任罪の疑いで逮捕された。
男は常勤医師として、院内で必要な物品の購入及び管理を院長から任されていた。
男と知人は、水増し請求分を分配しギャンブルに使っていたとのこと。
(2022年11月16日中国新聞デジタル「背任の疑いで再逮捕 広署など」を参考にしたフィクションです)
背任罪とは?
刑法247条が規定する背任罪は、他人のためにその事務を処理する者(①)が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的(②)で、その任務に背く行為(③)をし、本人に財産上の損害を加える(④)犯罪です。
背任罪の主体は、「他人のためにその事務を処理する者(①)」です。
本件の男は、K病院の常勤医師として、院内で必要な物品の購入及び管理を院長から任されていたようです。
したがって、男は背任罪が規定する、「他人のためにその事務を処理する者」にあたる可能性があります。
また、背任罪が成立するためには、図利・加害目的すなわち「自己もしくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的(②)」が必要です。
ここでの「本人」とは背任行為の行為者に事務処理を委託した者を言います。
本件では、K病院の院長が男に物品購入及び管理を頼んでいたようなので、K病院が本人にあたります。
そして男は、「本人」である病院に支払わせた水増し請求分を、知人と分配していたようです。
したがって、自己と知人(第三者)の利益を図ったとして図利・加害目的があったと評価されそうです。
次に、背任行為すなわち「任務に背く行為(③)」が背任罪の成立に必要です。
背任行為について、判例は信任関係の違背による財産の損害と考えているようです。
実際に、大審院の判決では、質物の保管者が信任関係に違背し、質物を債務者に返還することで財産上の損害を与えた事例では、背任行為にあたると判断されました(大判明治44年10月13日、大判大正3年6月20日)。
そのほかにも、信任関係の違背の例としては、銀行員が回収見込みがないに相手に対して、本来得るべき十分な担保や保証なしに、金銭を貸し付ける不良貸付や、保管を任されていた物を壊す行為などが挙げられます。
本件では、男は、院内の物品の発注担当者として、必要な物品を然るべき金額で購入することを病院に任されているにもかかわらず、それに反して知人に水増し請求させ過大な代金を病院に支払わせているので、背任行為があったと言えそうです。
最後に、「本人に財産上の損害を加えたこと(④)」も必要となります。
本件では、本人すなわち病院は、水増し請求により本来払う必要のない2470万円の金額の支払いをすることとなりましたので、男は本人に財産上の損害を与えたと言えそうです。
以上より、本件では背任罪が成立する可能性が高いと言えそうです。
なるべく早く弁護士に相談を
背任罪は被害者のいる犯罪です。
早い段階で被害者との間で示談を成立させ、真摯な謝罪と背任行為により与えてしまった損害を弁償することができれば、不起訴処分になる可能性があります。
仮に不起訴処分にならなかったとしても、判決前に被害者との間で示談を成立させることができれば、量刑が軽くなったり執行猶予付判決が得られるかもしれません。
もっとも、加害者が自力で被害者とスムーズに示談交渉を進められるとは限りません。
逮捕など身柄拘束された場合には、被害者含む外部の人とコンタクトを取ることは困難です。
逮捕されなかった場合にも、被害者は、信任関係を壊した加害者に対して強い処罰感情を有している可能性がありますから、示談交渉に応じてくれないこともあります。
そこで、なるべく早い段階で交渉のプロである弁護士に示談交渉を一任されることをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、背任事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
示談交渉を数多く成立させてきた弁護士が被害者側と示談交渉を行うことで、不起訴処分の獲得のほか、量刑を軽くしたり執行猶予付判決を得ることができる可能性があります。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。