パスワードの販売で不正競争防止法違反
パスワードの販売で不正競争防止法違反に問われた事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
京都市山科区に住んでいるAさんは、会社Vが提供しているXという音楽・映像編集ソフトの有料版を利用していました。
Xは、IDとパスワードによって管理されており、有料版を利用している人はそのIDとパスワードを入れることで有料版の機能を使えるようになっていました。
Aさんは、「IDとパスワードをネットオークションに出せば小遣い稼ぎになる」という話を聞きつけ、有料版のXを利用できるIDとパスワードを会社Vに無断でネットオークションに出品し、合計で50人程度の相手にIDやパスワードをメールやメッセージアプリを通じて教えました。
しばらくして、Aさんの自宅に京都府山科警察署の警察官が訪れ、Aさんに不正競争防止法違反の容疑がかかっていることを告げると、Aさんは逮捕されてしまいました。
Aさんは、家族の依頼で接見に訪れた弁護士に、自分にかかっている不正競争防止法違反という犯罪の中身と、今後の手続について詳しく相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・パスワードの販売と不正競争防止法違反
前回の記事で取り上げた通り、不正競争防止法では、特定の人以外に利用できないように営業上パスワードや暗号化などを用いて制限しているプログラムなどについて、その制限を効果を妨げるような指令符号(パスワード等)をインターネット等を通じて相手に渡す行為などが不正競争防止法の「不正競争」の1つとされ、いわゆる「プロテクト破り」などとも呼ばれています(不正競争防止法第2条第18号)。
今回のAさんの事例にあてはめて考えてみましょう。
まず、今回のAさんが利用していたソフトXの有料版は、有料版を利用している人がIDとパスワードを入れることで有料版の機能を利用できるようになっています。
つまり、有料版Xは、有料版の会員でない人が有料版を利用できないように制限しているものと考えられます。
不正競争防止法第2条第18号の条文と照らし合わせていくと、「他人」=会社Vが、「特定の者以外の者」=有料版の会員でない人に、有料版Xという「影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限」しているものと考えられます。
AさんによってパスワードがXの有料会員でない人に販売され渡されれば、その有料版の会員しか利用できないという制限は妨げられることになります。
すなわち、Aさんのパスワード提供によって本来特定の人以外に制限されているはずのプログラムの利用等が「当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能と」されることになります。
そしてAさんは、そのパスワードを販売してメール等によって販売相手にパスワードを送る=「指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為」をしています。
したがって、Aさんの行為は不正競争防止法のいう「不正競争」に当たると考えられるのです。
では、パスワードの販売によってAさんに不正競争防止法違反が成立するとして、Aさんにはどういった刑罰が考えられるのでしょうか。
不正競争防止法第21条第2項
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第4号 不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で、第2条第1項第17号又は第18号に掲げる不正競争を行った者
今回の事例のAさんは、有料版Xのパスワードを販売することでお金を稼ごうとしたようです。
パスワードの販売によって出た利益は、会社Vに無断で不法に取得した利益ということになりますから、Aさんは「不正の利益を得る目的」があったといえるでしょう。
そのため、Aさんが不正競争防止法第2条第18号に違反したとすると、不正競争防止法第21条第2項第4号により、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれの併科という刑罰が科せられると考えられるのです。
刑罰を見ていただければわかる通り、不正競争防止法違反は非常に重い犯罪です。
だからこそ、被害者対応や取調べ対応などに早い段階から慎重かつスピーディーに活動していくことが重要なのですが、事件内容が複雑なことや、被害者である企業相手に対応しなければならないことに不安を抱える方もいらっしゃいます。
だからこそ、専門家である弁護士に相談・依頼するメリットも大きい刑事事件と言えるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は刑事事件専門の法律事務所ですから、不正競争防止法違反事件も安心してお任せいただけます。
まずはお気軽に、弊所弁護士までご相談ください。