不正競争防止法違反と「プロテクト破り」
不正競争防止法違反と「プロテクト破り」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
京都市山科区に住んでいるAさんは、会社Vが提供しているXという音楽・映像編集ソフトの有料版を利用していました。
Xは、IDとパスワードによって管理されており、有料版を利用している人はそのIDとパスワードを入れることで有料版の機能を使えるようになっていました。
Aさんは、「IDとパスワードをネットオークションに出せば小遣い稼ぎになる」という話を聞きつけ、有料版のXを利用できるIDとパスワードを会社Vに無断でネットオークションに出品し、合計で50人程度の相手にIDやパスワードをメールやメッセージアプリを通じて教えました。
しばらくして、Aさんの自宅に京都府山科警察署の警察官が訪れ、Aさんに「プロテクト破り」をしたことによる不正競争防止法違反の容疑がかかっていることを告げると、Aさんは逮捕されてしまいました。
Aさんは、家族の依頼で接見に訪れた弁護士に、自分にかかっている不正競争防止法違反という犯罪の中身と、今後の手続について詳しく相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・不正競争防止法と「プロテクト破り」
今回のAさんは、有料版のソフトウェアXを利用できるパスワード等をネットオークション等で販売していたようです。
一見するとどんな犯罪が成立するのか分かりづらい事例ですが、こういった事例では、Aさんの逮捕容疑でもある不正競争防止法違反という犯罪が成立することが考えられます。
不正競争防止法は、簡単に言えば、文字通り事業者間での不正な競争を防止し、公正な競争を確保するための法律です。
事業者同士は、お互い市場におけるライバルのように競い合っていますが、その競争が不正に行われるようになるとなんでもやり放題になってしまって企業や経済の信用が失われてしまったり、消費者が被害を受けてしまったり、経済の成長が滞ってしまったりすることが考えられます。
そういったことを防止するために、不正競争防止法では公正な競争を確保するための決まりやそれを破った時の罰則などを定めているのです。
こうした不正競争防止法の目的等を見ると、今回のAさんの行為のように、一個人の行動によって不正競争防止法違反になるようなことはなさそうに見えます。
しかし、不正競争防止法の中には、以下のような規定があります。
不正競争防止法第2条
第1項 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
第18号 他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)、当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)若しくは指令符号を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為
第8項 この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法により影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録のために用いられる機器をいう。以下この項において同じ。)が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音、プログラムその他の情報を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
長くて分かりづらいかもしれませんが、簡単にまとめると、特定の人以外に利用できないように営業上パスワードや暗号化などを用いて制限しているプログラムなどについて、その制限を効果を妨げるような指令符号(パスワード等)をインターネット等を通じて相手に渡す行為などが不正競争防止法の「不正競争」の1つとされています。
このような行為は、プログラム等にかかっている制限(いわゆる「プロテクト」)を妨害することから、いわゆる「プロテクト破り」と呼ばれ、不正競争防止法第2条第17号・第18号(今回取り上げているのは第18号の条文)は、この「プロテクト破り」を助長する不正競争行為を禁止しています。
「プロテクト破り」という呼び方から、物理的に制限を破ったり、いわゆるクラッキングしてシステムに侵入したりするイメージがわくかもしれませんが、先ほど挙げたようにパスワードを提供するといった行為でも「プロテクト破り」による不正競争防止法違反となることに注意が必要です。
次回は、今回のAさんの事例がこの「プロテクト破り」に当てはまるのかどうか、条文とAさんの行為を照らし合わせながら具体的に検討していきます。
「プロテクト破り」などの不正競争防止法違反は、条文が複雑なこともあり、どういった容疑をかけられているのか理解するにも大変に感じられることもあるでしょう。
だからこそ、早い段階で弁護士に相談・依頼することが重要です。
京都府の不正競争防止法違反事件にお困りの際は、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部までご相談ください。