ごみの持ち去りで刑事事件②窃盗罪

ごみの持ち去りで刑事事件②窃盗罪

ごみの持ち去りから刑事事件に発展したケースで、特に窃盗罪の容疑をかけられた場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

~事例~

京都市伏見区に住んでいるAさんは、ある日、近所のごみ捨て場に自転車が停められているのを発見しました。
Aさんが見てみたところ、その自転車はまだ使えそうであったため、Aさんはその自転車を持ち帰って使用していました。
するとある日、Aさんが自転車を使用して買い物に出ていた際、巡回していた京都府伏見警察署の警察官から職務質問を受けました。
そこで調べてみると、その自転車は盗難届が出されているものであったことが判明しました。
Aさんはごみ捨て場にあったから持ってきただけだと話しましたが、窃盗罪の容疑で京都府伏見警察署で話を聞かれることとなってしまいました。
(※この事例はフィクションです。)

・ごみを持ち帰って窃盗罪?

ごみ捨て場に捨ててある物はごみとして捨てられたものであるから持ち帰っても問題ないだろうと考えている方もいるかもしれません。
まだ使えそうなものがごみ捨て場にあった場合、Aさんのように「もったいない」と考えてしまうかもしれません。
ですが、だからといってごみを持ち帰ってしまえば、刑事事件に発展してしまう可能性があるのです。
前回の記事で取り上げたように、地方自治体によっては条例によってごみの持ち去りを禁止しており、禁止命令に反した場合の刑罰まで定めているところもあります。
しかし、今回のAさんの事例で登場する京都市ではごみに関する条例に罰則は定められていません。
それでも刑事事件になってしまう可能性はあるのでしょうか。

まずは、今回のAさんが容疑をかけられている窃盗罪について検討してみましょう。

刑法235条(窃盗罪)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

窃盗罪のいう「他人の財物」とは、他人が「占有」している他人の財物のことを指すとされています。
「占有」とは、人がその財物を事実上支配・管理している状態のことを指します。
さらに、「占有」があるのかどうかは、人がその物を事実上支配している状態であるかどうかという客観的な要素と、人がその物に対して事実上支配する意欲や意思があるかどうかという主観的な要素を総合的に考慮して判断されます。
つまり、窃盗罪の客体となる物は、他人が事実上支配・管理している他人の物、ということになります。

そして、窃盗罪にいう「窃取」とは、先ほど触れた「占有」をしている人の意思に反して、その占有している人の財物に対する「占有」を排除し、財物を自分や第三者の「占有」下に置くことを指します。
すなわち、すでにその物を支配・管理している人の意思に反してその物を自分や他の人の支配・管理下にしてしまうことが窃盗罪の「窃取」なのです。

窃盗罪の典型例として挙げられる万引きで考えてみれば分かりやすいでしょう。
お店の商品はもちろん、お店の支配・管理下にあるといえます。
お店の中に陳列されていることからも、お店が事実上支配・管理していると考えられますし、お店側も商品はお店が支配・管理しているものであると認識しているはずですから、商品にはお店の「占有」があるといえるでしょう。
ここから、商品は窃盗罪のいう「他人の財物」であると考えられます。
しかし、万引きの場合はその商品を会計せずに持ち去って自分の物としてしまいます。
これは商品を「占有」しているお店の意思に反することであり、商品を自分の「占有」下に移していることですから、窃盗罪のいう「窃取」にあたると考えられ、窃盗罪が成立するということになるのです。

では、今回のAさんの事例を考えてみましょう。
そもそも、Aさんはごみ捨て場にあった自転車だからと自転車を持ち去っていますが、その自転車が本当に捨ててあったものなのかどうかということが問題となります。
事例では詳しく書かれていませんが、もしもたまたま自転車の持ち主がごみ捨て場近くに用事があり自転車を停めていただけであれば、自転車の「占有」は持ち主のもののままと考えることもできます。
そうなれば、その場から自転車を持ち去ってしまったAさんには窃盗罪が成立する可能性も出てくることになります。

なお、もしも捨ててあった自転車であったとしても、ごみ捨て場がその自治体等の管理する場所であり、そこに捨てられていたものが自治体等の支配・管理下にあると判断された場合には、持ち去ったものによっては窃盗罪となる可能性もあります。
ごみということは財産的価値がなく、窃盗罪のいう「財物」といえないのではないかとも考えられますが、窃盗罪の「財物」の財産的価値については判断が分かれています。
過去の事例ではメモ1枚やちり紙13枚といったものについて、財産的価値がわずかであるとして窃盗罪の「財物」とはいえないとした事例も見られますが、例えばAさんの持ち帰ったような自転車などは、まだそれ自体として使用できたり、リサイクルする物としての価値があったりと判断されれば、財産的価値がある=窃盗罪の「財物」にあたる、と判断される可能性もあります。

このように、ごみの持ち去りだと思っていても、窃盗罪となる可能性はあります。
では、自転車が捨てられていた場合で誰の占有にもなかった場合には、持って帰ってしまっても犯罪は成立せず、刑事事件化することはないのでしょうか。
こちらは次回の記事で取り上げていきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、ごみの持ち去りから窃盗事件に発展してしまったというご相談もお受けしています。
お困りの際は遠慮なく、弊所弁護士までご相談ください。

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