公務執行妨害罪と業務妨害罪②
公務執行妨害罪と業務妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
Aさんは、京都市中京区に住んでいます。
Aさんは、たびたび京都市中京区役所に住民が受けられるサービスについて説明を受けていましたが、その説明がわかりづらく、また区役所職員の態度も悪いと感じていました。
そこでAさんは、自身の携帯電話から区役所に連続して電話をかけ、「職員の態度が悪い」「きちんと礼儀を教えろ」などとクレームを入れ続けました。
区役所からは、意見は分かったので同じ内容の電話を多数かけるのを控えてほしいといった旨を伝えられましたが、Aさんは電話をかけることをやめず、半年間で600回以上にわたり区役所に電話をかけ続けました。
するとある日、Aさんは京都府中京警察署に、偽計業務妨害罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(※令和2年2月17日京都新聞配信記事を基にしたフィクションです。)
・大量の電話と業務妨害罪
前回の記事では、Aさんに公務執行妨害罪が成立しないと考えられるということを取り上げましたが、今回はAさんの逮捕容疑である業務妨害罪について取り上げていきます。
刑法233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法234条
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
普段の会話や報道の中では、単なる「業務妨害」という単語として聞くことが多いかもしれませんが、業務妨害罪には2つの種類があります。
それが、刑法233条の偽計業務妨害罪と刑法234条の威力業務妨害罪です。
今回Aさんに容疑をかけられているのは刑法233条の偽計業務妨害罪の方ということになります。
偽計業務妨害罪とは、「偽計を用いて」「業務を妨害した」者に成立する犯罪です。
「偽計」とは難しい言葉のようにも思えますが、人を騙したり誘惑したり、あるいは人の錯誤(勘違い)や不知を利用したりすることを指すと言われています。
この「偽計」については、公然となされても秘密になされても偽計業務妨害罪の成立には関わらないとされています。
つまり、業務妨害行為の手段として、人を騙したり、人の勘違いや不知を利用したりしていれば偽計業務妨害罪となるのです。
一方、もう1つの業務妨害罪である威力業務妨害罪の場合、業務妨害行為の手段として「威力」が用いられることになります。
「威力」とは、「犯人の威勢、人数および四囲の状況からみて、被害者の自由意思を制圧するにたりる勢力」を指すとされています(最判昭和28.1.30)。
すなわち、業務妨害行為の手段として、相手の意思を制圧するような行為を用いた場合、威力業務妨害罪が成立しうるということです。
過去の裁判例や判例では、業務妨害事件の際、業務妨害行為の手段としてそれが外見的に見て明らかであれば威力業務妨害罪、外見的に見て明らかでなければ偽計業務妨害罪と判断していることも多いです。
これらの業務妨害罪は業務妨害行為の手段とするものが異なるのみであり、どちらもその成立には「業務を妨害した」ことが必要です。
しかし、実はこの「業務を妨害した」に該当するケースは、実際にその業務が妨害されたという事実のある時のみに限りません。
業務妨害罪の成立には現実に業務が妨害されたという事実は必ずしも必要なく、業務が妨害される危険が発生していれば、実際に業務が妨害されていなくてもよいとされているのです。
では、今回のAさんの行為について具体的に当てはめて考えてみましょう。
Aさんの場合、大量の同じ内容の電話をかけ続けたことが業務妨害行為の手段にあたる行為でしょう。
電話をかけ続ければ、当然区役所の職員はそれに対応しなければならないため、電話を取ることになります。
しかし、職員からしてみれば、電話を取って話を聞くまでは、多数同じ内容でクレームを入れ続けているAさんの電話なのか、他の住民や取引先などからの電話なのかもわかりません。
さらに、電話を受ければ当然その対応に時間が割かれることになり、その回数や時間が増えれば、その時間で行えていた他の業務や電話に対応することができなくなってしまいます。
こうしたことから、Aさんは「偽計」を用いて「業務を妨害した」と判断され、偽計業務妨害罪の容疑をかけられたのでしょう。
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