偽造の罪

【公文書偽造罪(刑法155条1項)
行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。

【私文書偽造罪(159条1項)
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

1.文書偽造の罪

(1)文書偽造の罪とは?

文書に対する公共の信用を保護するために規定されています。

詔書偽造罪(154条)、公文書偽造罪(155条)、虚偽公文書作成罪(156条)、公正証書原本不実記載罪(157条)、偽造公文書行使罪(158条)、私文書偽造罪(159条)、虚偽診断書作成罪(160条)、偽造私文書行使罪(161条)、電磁的記録不正作出・強要罪(161条の2)が規定されています。

(2)用語の説明

①「偽造」

作成権限を有しない者が、他人名義を冒用して文書を作成することをいいます。

そして、その実質は、文書の名義人と作成者との人格の同一性を偽ることをいいます。

cf)変造とは、権限のない者が真正に成立している他人の文書につき、その非本質的な部分に変更を加えることです。例えば、貯金通帳の預入れ・払戻しの金額欄を改変する行為は変造にあたります。

②「公文書」

公務所又は公務員が職務上作成する文書のことをいいます。

(例)健康保険証、運転免許証、住民票、戸籍謄本など

③「私文書」

刑法で処罰される「私文書」とは、私人が作成名義人である文書のうちで、権利・義務に関する文書および事実証明に関する文書をいいます。

「権利・義務に関する文書」とは、私法上または公法上の権利・義務の発生、消滅、変更を目的とする意思表示を内容とする文書を言います。

また、「事実証明に関する文書」とは、社会生活に交渉を有する事項を証明する文書を言います。

(例)申込書、契約書、請求書、受領書、委任状など

④「有印」と「無印」

「有印文書」とは、名義人の印章又は署名のある文書のことをいい、「無印文書」とは、名義人の印章及び署名のない文書のことをいいます。

有印公文書は、社会的信用が高いためその偽造は無印文書より重く処罰されています。

(文書偽造・変造罪で成立する犯罪・法定刑)

 公文書私文書
有印文書有印公文書偽造・変造罪(刑法155条1項・2項)
1年以上10年以下の懲役
有印私文書偽造・変造罪(刑法159条1項・2項)
3月以上5年以下の懲役
無印文書無印公文書偽造・変造罪(刑法155条3項)
3年以下の懲役又は20万円以下の罰金
無印私文書偽造・変造罪(刑法159条3項)
1年以下の懲役又は10万円以下の罰金
偽造文書を使用等した場合偽造公文書行使等罪(刑法158条)
偽造・変造した場合と同じ刑罰
偽造私文書行使等罪(刑法161条)
偽造・変造した場合と同じ刑罰

2.偽造罪Q&A

①妻に内密に、妻の署名捺印をして離婚届を役所に提出することは偽造罪が成立しますか?

役所に提出する目的で離婚届を偽造するのは有印私文書偽造罪,その偽造離婚届を役所に提出するのは偽造有印私文書行使罪が成立します。

なお、戸籍に虚偽の記録をさせるのは電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)になります。

②就職の際に、自分の顔写真をはりつけた架空人名義で生年月日、住所、経歴等を記載した履歴書を作って会社に提出した場合、文書偽造罪が成立しますか?

有印私文書偽造罪及び同行使罪が成立します。

文書に表示された名義人は、被告人とは別人格の者であることが明らかであり、名義人と作成者との人格の同一性に齟齬を生じさせており、「偽造」といえるからです。

③履歴書を自分名義で作成したのですが、経歴を少し大げさに書いた場合、私文書偽造罪が成立しますか?

そのような場合には、私文書偽造罪は成立しません。

私文書偽造罪は、作成権限を有しない者が、他人名義を冒用して文書を作成する偽造の処罰を原則としています。

一方で、名義人と作成者が一致しているものの、表示内容が真実に反する文書(虚偽文書)については私文書の場合、原則として処罰されないこととなっています(例外として虚偽診断書作成罪)。

ただし、採用前に発覚すれば不採用となったり、採用後に懲戒されたりするリスクはありますので、履歴書に虚偽記載をするのはやめましょう!

④無免許運転中に交通違反で捕まったのですが、友人から事前に承諾を得ていたので、反則キップに友人の名前を記載した場合、私文書偽造罪が成立しますか?

私文書偽造罪が成立します。

判例は、「交通事件原票中の供述書は、その文書の性質上、作成名義人以外の者がこれを作成することは法令上許されないものであって、右供述書を他人の名義で作成した場合は、あらかじめその他人の承諾を得ていたとしても、私文書偽造罪が成立する。」としています(最決昭56.4.8)

⑤偽札を作った場合には、どのような犯罪が成立しますか?

通貨偽造罪が成立します。

また、お金を受け取った時には、偽札とは知らなかったが、後に偽札であることを知って、使った場合には、収得後知情行使罪という犯罪が成立します。

【通貨偽造罪(刑法148条1項)
行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は無期又は3年以上の懲役に処する。

【収得後知情行使等(刑法152条)
貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の3倍以下の罰金又は併科に処する。ただし、2千円以下にすることはできない。

⑥虚偽の転入届で住民基本台帳に偽りの記載をさせた場合にどのような犯罪が成立するのですか?

公正証書原本不実記載罪が成立します。

公正証書原本不実記載罪とは、公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿・戸籍簿その他の権利・義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、または権利・義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせる犯罪です。

登記簿・戸籍簿等の公文書について、虚偽の申告により虚偽の記載がなされることを防ぐために規定されました。

【公正証書原本不実記載等(刑法157条)
1項
公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

2項
公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

3項
前2項の罪の未遂は、罰する。

⑦クレジットカードのスキミングをしてカード情報を取得した場合に、どのような犯罪が成立しますか?

支払用カード電磁的記録不正作出準備罪が成立します(10年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。

なお、スキミングをしなくとも、スキミングに使用するスキマーや不正なカード作成の原材料を用意した場合も処罰されます(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。

【支払用カード電磁的記録不正作出準備罪(刑法163条の4第1項)

人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金又は料金の支払い用のカードを構成するものを不正に作った者は、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

文書偽造事件における弁護活動

1 被害弁償や示談交渉

文書偽造事件・有価証券偽造事件を起こしたことについて争いがない場合には、早期の示談成立を目指した弁護活動を行います。

偽造文書を行使した場合、その行使した相手方・被害者や、文書に名義を使用された真の名義人と示談交渉を進めます。

警察・検察での捜査段階で示談成立すれば、不起訴処分となりえます。

文書偽造事件で不起訴処分となれば、裁判所での刑事裁判になりませんし、前科が付くこともありません。

一方で、有印公文書偽造罪や有印私文書偽造罪は罰金刑が規定されていません。

そのため、起訴されてしまうと、「無罪判決」、「執行猶予付き判決」、「懲役刑の実刑判決」しかありません。

起訴を避けるには、早期に被害者への謝罪や被害弁償を行い示談することが重要です。

もし捜査段階で被害者と示談することができれば、不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。

示談は契約ですので、被疑者と被害者が合意することにより作ることになりますが、相手の被害感情を考えると直接被疑者が被害者と交渉を行うのは困難であり、示談ができたとしても不相当に過大な金額での示談解決になる可能性が大きいと考えられます。

弁護士を通じれば、冷静な交渉により妥当な金額での示談解決が図りやすくなります。

2.早期の身柄開放活動

偽造の罪で逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。

そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。

3.否認事件では、冤罪を防止すべく被害者や目撃者の方に記憶違いがないかの検証・弾劾活動及び弁護側独自で有利な証拠を収集・提出できるよう活動します。

偽造事件でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部へお問い合わせください。

刑事事件を専門に取り扱う弁護士が、直接「無料相談」を行います。

被疑者が逮捕された事件の場合、最短当日に、弁護士が直接本人のところへ接見に行く「初回接見サービス」もご提供しています。すぐにお問い合わせください。

 

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