返済見込みがない知人の会社に貸付を行ったとして背任罪で逮捕された事例

返済見込みがない知人の会社に貸付を行ったとして背任罪で逮捕された事例

手錠とガベル

返済見込みがないにもかかわらず、知人の会社に貸付を行ったとして銀行の支店長が背任罪の疑いで逮捕された事例について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事件概要

京都府北警察署は、市内に支店を構えるイロハ銀行の支店長の男(45)を背任罪の疑いで逮捕した。
男は、資金繰りに苦しむ知人の経営する老舗の和菓子店から頼まれ、十分な担保を得ずに2000万の融資を当該和菓子店にする決断をした。
融資を受けた和菓子店の経営状況は非常に悪く、業績を回復する客観的な手立てもなかったため、融資の段階で男は返済が見込めないことはわかっていたが、小学校からの幼馴染が経営する店だったため独断で融資に踏み切ったとされている。
男の部下であるイロハ銀行の従業員から告発を受けて、京都府北警察署は捜査の上、男を逮捕した。
(フィクションです)

背任罪とは?

刑法247条 
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

背任罪は、窃盗罪のように誰もが犯す可能性がある犯罪ではなく、「他人のためにその事務を処理する者」が特定の行為を実行した場合にのみ成立する犯罪です。
本件では、イロハ銀行の支店長の男性が返済見込みのない企業に融資をして背任罪の疑いで逮捕されています。
銀行の支店長は、銀行という法人のために融資の判断などの銀行の事務を処理する者です。
したがって、支店長である男は「他人のためにその事務を処理する者」にあたり、銀行との間で男が負っている任務に背いた場合には、背任罪が成立する可能性があります。

そして、背任罪が成立するためには、「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」が必要です。
本件では、男は、小学校からの幼馴染である知人の経営する和菓子店が資金繰りに困っていたので、その知人を助けるために2000万の融資を決断しています。
したがって、第三者である知人の利益を図るという目的を有していたといえそうです。

次に、背任罪となる行為である「任務に背く行為」があったかどうかが問題となります。
この意義について、いくつかの見解が存在しますが、判例は、信任関係の違背であると考えているようです(大判明治44年10月13日、大判大正3年6月20日)。
本件では、支店長の男は、銀行から支店の業務について任されており、融資の判断にあたっては、回収可能性の有無を担保も含めて厳しく判断し、もし回収できそうにないのであれば融資を見送ることが求められていると考えられます。
にもかかわらず、男は、幼馴染を助けようとして、担保を提供させることなく回収見込みのない融資をすることを決断しています。
したがって、支店長の男は、銀行との間の信任関係に違背したといえそうですから、背任罪が成立する可能性があります。

財産上の損害の有無

ところで、背任罪が成立するためには、「本人に財産上の損害を加えた」ことが求められています。
たしかに、本件では、男は2000万円の融資を決断していますから、本人である銀行は2000万を失うという損害を与えられたといえそうです。
しかし、同時に、銀行は融資先である和菓子店に対して、少なくとも2000万円の債権を取得していますから、両者を合わせるとでマイナスとはならないため、財産上の損害は存在しないのではないでしょうか?
財産上の損害が加えられたか否かの判断について、判例は、経済的見地から財産の価値が減少したか又は、増加するべく価値が増加しなかったどうかで判断するとしています(最決昭和58年5月24日)。
本件についてみると、たしかに、銀行は現金2000万の喪失と同時に、2000万円の債権を取得しています。
しかし、債務者である和菓子店の財政状態は危機的であるため債権の回収見込みはなく、額面上2000万である上記債権の価値は2000万には遠く及ばないといえそうです。
したがって、経済的見地からは、男の融資により、銀行の財産の価値は減少したといえそうです。
以上より、本件では背任罪が成立する可能性があります。

なお、会社法は、取締役等が背任罪にあたる行為をした場合に、これを重く処罰する特別背任罪という規定を設けています(会社法960条)。
刑法の背任罪の法定刑が5年以下の懲役又は50万円以下の罰金であるのに対して、特別背任罪10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとなっています(会社法960条1項2項本文)。
取締役等には支配人が含まれます(会社法960条1項6号)から、支店長の男が支配人として選任されていた(会社法10条)場合は、刑法の背任罪ではなく会社法の特別背任罪が成立することになります。

できるだけ早く弁護士に相談を

上記のように背任罪は損害を加えられた被害者のいる犯罪です。
通常刑事事件の被害者は加害者に対し強い処罰感情を有していることが多いです。
もっとも背任罪の被害者の中には事件を大ごとにしたくないと思う方もいらっしゃるため、真摯に謝罪し背任行為によって生じた損害を弁償すれば被害届の提出など事件化はしないという方向で示談に応じてくれることもあります。
仮に、警察が捜査に乗り出したとしても、示談が成立していれば不起訴処分となったり、量刑が軽くなったり、執行猶予付判決が得られる可能性があります。
もっとも、本件のように逮捕されていては、コンタクトを取ることは困難です。
そこで、なるべく早い段階で交渉のプロである弁護士に示談交渉を一任されることをおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、背任事件など刑事事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
示談交渉を数多く成立させてきた弁護士が企業側と示談交渉を行い示談を締結することで、不起訴処分、刑の減軽、執行猶予付判決を得ることができる可能性があります。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

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