【事例紹介】福知山花火大会の事故と業務上過失致死罪

9年前の8月15日、福知山花火大会爆発事故が起きました。
事故当時は多くのメディアで報道され、記憶に残っている方も多いと思います。
今回の記事では、9年前の福知山花火大会爆発事故を基に業務上過失致死傷罪を解説します。

事例

58人が死傷した京都府福知山市の花火大会での露店爆発事故で、京都府警は2日、業務上過失致死傷の疑いで、火元となったベビーカステラの露店の店主(中略)を逮捕したと発表した。

逮捕容疑は、(中略)容疑者は8月15日午後7時半ごろ、福知山市の由良川河川敷で露店を営業中、発電機に給油しようとして携行缶のガソリンを噴出させ、プロパンガスの火に引火爆燃させた。
この爆発で(中略)を死亡させ、54人にやけどなどを負わせたが、給油の際に業務上の注意義務を怠り、漫然と携行缶のキャップを開けた-としている。

(2013年 産経新聞 「漫然とガソリン携行缶のキャップ開けた…業過致死傷容疑で逮捕の露店店主」より引用)

殺人罪

人を殺してしまった場合には、殺人罪が適用されると考える方も多いと思います。
今回の事例で、なぜ殺人罪ではなく業務上過失致死傷罪が適用されたのか疑問に思った方もいるのではないでしょうか。
ですので、業務上過失致死罪の解説の前に、なぜ今回の事例で殺人罪が適用されないのかを説明します。

殺人罪は刑法第199条で規定されています。

刑法第199条
人を殺した者は、死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役に処する。

殺人罪が適用されるためには、その行為を行うことにより人が死ぬという認識があったかどうかが必要となります。
つまり、殺意(殺人罪の故意)をもって人を殺す必要があります。
例えば、車で人をひき殺してしまった場合、殺意を持ってひき殺したのであれば殺人罪、殺意がなかったのであれば過失運転致死罪などが適用されることになります。

今回取り上げた事例の容疑者は、人を殺そうと思ってあえて爆発を起こしたわけではありませんので、殺人罪は適用されないことになります。

業務条過失致死傷罪

業務上過失致死傷罪は刑法第211条で規定されています。

刑法第211条
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

業務上過失致死傷罪の適用範囲は幅広く、業務を行う上で過失により人を死傷させた場合に適用されます。(※交通事故の場合は別の罪名が適用されます。)
今回取り上げた事例の容疑者は、露店の営業中に過失によって事故を起こしました。
露店の営業は業務だと考えられますので、業務中の過失で人を死傷させたことになります。
前述したように、業務を行う上で過失により人を死傷させた場合に業務上過失致死傷罪が適用されますので、事例の容疑者は業務上過失致死傷罪で逮捕されたことは不思議なことではないといえます。

業務上過失致死傷罪で有罪となった場合は、5年以下の懲役か禁錮または100万円以下の罰金が科されることになります。
実際に福知山花火大会での爆発事故の裁判では、禁錮5年が言い渡されました。

業務上過失致死傷罪の裁判例

これからご紹介する裁判例は、花火大会の事故とは事故の性質や被害人数など様々な点で異なっていますが、花火大会の事故と同様に業務上の過失により起きた事故であり、被告人に対して年数は異なりますが禁錮刑が言い渡されていますのでご紹介します。

兵庫県で起こった火災事故の裁判例をご紹介します。

この裁判例の被告人は、兵庫県でカラオケ店Aを経営していました。
事故当日、AでアルバイトをしていたBさんは、調理のために中華鍋を用いてサラダ油を加熱していましたが、加熱している間に他の業務を行っていたBさんは鍋のことを忘れてしまい、鍋を加熱したままの状態で厨房を離れてしまいました。
その後、鍋のサラダ油が発火し火災が起きました。
厨房は1階にあり、2階の客室には8人の人がいましたが、カラオケ店Aは1階と2階をつなぐ階段等を通じて火災が拡大しやすい構造をしていました。
実際に火災が起きた際には、この階段を通じて一酸化炭素を含む高温の煙が2階に充満し、3人が一酸化炭素中毒により死亡し、人が怪我を負いました。
被告人は防火上必要な措置を講じるべき業務上の注意義務がありましたが、誘導灯や避難はしご等の避難器具や使用できる消火器などを設置せず、従業員に対して、消火訓練もしていませんでした。
裁判で被告人は、防火管理上の措置を行うべき義務を負いながら義務を果たしておらず、被告人自身の行為が本件の重大な要因となっていることから間接的な過失にとどまるものではなく、被告人の行為は厳しい非難を免れないと、判断されました。
また、死亡した3人は若く、怪我をした人も後遺症が残る可能性があることから被告人の刑事責任は重いと判断され、被告人には業務上過失致死傷罪による禁錮4年の有罪判決が言い渡されました。
(以上、神戸地方裁判所 平成19年12月12日より)

ご紹介した裁判例も福地山花火大会と同様に禁錮刑が言い渡されています。
業務中のちょっとした過失により事故を引き起こしてしまったとしても、人を死傷させてしまえば、禁錮刑や懲役刑などの実刑判決が言い渡される可能性があります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部刑事事件を中心に取り扱う法律事務所です。
業務上過失致死傷罪などの刑事事件でお困りの際は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

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