公務執行妨害罪と業務妨害罪①
公務執行妨害罪と業務妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。
~事例~
Aさんは、京都市中京区に住んでいます。
Aさんは、たびたび京都市中京区役所に住民が受けられるサービスについて説明を受けていましたが、その説明がわかりづらく、また区役所職員の態度も悪いと感じていました。
そこでAさんは、自身の携帯電話から区役所に連続して電話をかけ、「職員の態度が悪い」「きちんと礼儀を教えろ」などとクレームを入れ続けました。
区役所からは、意見は分かったので同じ内容の電話を多数かけるのを控えてほしいといった旨を伝えられましたが、Aさんは電話をかけることをやめず、半年間で600回以上にわたり区役所に電話をかけ続けました。
するとある日、Aさんは京都府中京警察署に、偽計業務妨害罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(※令和2年2月17日京都新聞配信記事を基にしたフィクションです。)
・区役所への大量のクレーム電話…公務執行妨害罪にならない?
今回のAさんは区役所に大量の電話をかけ続けたことで偽計業務妨害罪の容疑をかけられ逮捕されています。
ここで、Aさんが業務妨害行為をしたのは区役所という公の機関に対してのことであることから、Aさんに成立する犯罪は公務執行妨害罪なのではないか、と不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
まずは、なぜAさんにかけられている容疑が公務執行妨害罪ではないのか確認してみましょう。
刑法95条(公務執行妨害罪)
1項 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2項 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。
公務執行妨害罪は、この条文にあるように、「公務員が職務を執行するに当たり」「(これに対して)暴行又は脅迫を加え」ることで成立する犯罪です。
公務執行妨害罪のいう「公務員」の定義は、刑法7条に書かれています。
刑法7条
この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。
つまり、今回の事例でいえば、区役所の職員などはこの公務執行妨害罪の「公務員」に当てはまることになります。
しかし、公務執行妨害罪の「公務員が職務を執行するに当たり」という条文の「職務」については、「漫然と抽象的・包括的に捉えられるべきものではなく、具体的・個別的に特定されていることを要するものと解すべき」とされています(最判昭和45年12月22日)。
つまり、公務員の仕事中であればその全ての行為に対して公務執行妨害罪のいう「公務員が職務を執行するに当たり」という条件に当てはまるものと判断されるとは限らないということです。
今回の事例でも、Aさんの大量の電話によって妨害された、もしくは妨害の危険が発生したのが「具体的・個別的に特定されている」公務である場合には、公務執行妨害罪の「公務員が職務を執行するに当たり」という文言に当てはまる可能性も出てくるかもしれませんが、そうでない場合はAさんの行為は公務執行妨害罪には当てはまらないということになるのです。
さらに、Aさんが今回した行為としては、区役所に大量に電話をかけ続け、クレームを入れ続けたという行為になります。
ですが、公務執行妨害罪が成立するには「暴行又は脅迫を加え」ることが必要です。
電話でクレームを入れ続けるという行為は「暴行」ではないでしょう。
加えて、Aさんの電話の内容はクレームであり、文句であることから、「脅迫」であるとも考えづらいです。
こうしたことから、Aさんは公務執行妨害罪の成立条件を満たさず、公務執行妨害罪には問われていないのだと考えられるのです。
次回の記事ではAさんの逮捕容疑である業務妨害罪について詳しく見ていきましょう。
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