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【事例紹介】心霊スポットに訪れた人からお金を脅し取った事例

2023-12-29

【事例紹介】心霊スポットに訪れた人からお金を脅し取った事例

犯罪行為で得たお金

心霊スポットに立ち入った人から、示談金の名目でお金を脅し取ったとして恐喝罪の容疑で逮捕された事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事例

「心霊スポット」とされるホテル跡地に立ち入った若者から示談金名目で現金を脅し取ったなどとして、京都府警木津署は19日、恐喝などの疑いで(中略)容疑者(32)と(中略)容疑者(40)と(中略)容疑者(30)を逮捕した。(中略)容疑者は容疑を認め、(中略)容疑者と(中略)容疑者は否認している。
逮捕容疑は共謀し今年8~9月、京都府笠置町にあるホテル跡地に立ち入った20代男性ら4人に対し「不法侵入です」「前科がつく」などと脅し、示談金として計120万円を脅し取ったなどとしている。
木津署によると(中略)容疑者は今夏から、ホテル跡地の所有者から現場の管理業務を任されていた。(後略)

(12月19日 産経新聞 「廃ホテル侵入者に「前科がつく」 120万円恐喝容疑でユーチューバーら3人逮捕」より引用)

恐喝罪

刑法第249条1項
人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

恐喝罪は、簡単に説明すると、強盗罪にいたらない程度の暴行や脅迫を用いてお金などを受け取ると成立する犯罪です。
大まかに説明すると、強盗罪は抵抗できないような暴行や脅迫を用いてお金などを奪うと成立します。
ですので、恐喝罪が規定する暴行や脅迫は、強盗罪が成立するような抵抗できない程度には至らない程度のものになります。

暴行は、殴る、蹴るはもちろんのこと、腕をつかむ行為や髪の毛を引っ張る行為なども暴行にあたります。
また、相手に恐怖を感じさせる害を与える告知が脅迫にあたります。

今回の事例では、容疑者らが心霊スポットに訪れた被害者らに対して、「不法侵入です」「前科がつく」などと脅して計120万円を脅し取ったとされています。
他人の敷地に無断で侵入して「不法侵入です」や「前科がつく」などと言われれば、前科がついて将来を棒に振ってしまうのではないかと恐怖を感じるのではないでしょうか。
また、「不法侵入です」や「前科がつく」と言われただけでは、その場から逃げ出すなどできそうですから、抵抗できない程度とはいえないでしょう。
ですので、被害者に対して「不法侵入です」や「前科がつく」と言う行為は、恐喝罪で規定する脅迫にあたりそうです。
報道によると、容疑者らは示談金の名目でお金を受け取っているようですので、実際に容疑者らが被害者に対して「前科がつく」などと脅してお金を受け取ったのであれば、恐喝罪が成立する可能性があります。

肝試しと建造物侵入罪

今回の事例では、事件現場が心霊スポットされているホテル跡地のようです。
報道によれば、容疑者らは被害者に「前科がつく」などと脅していたようです。
実際に被害者に前科がつくことはあるのでしょうか。

刑法第130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

大まかに説明すると、人が現在暮らしている家や宿泊しているホテルの一室などを住居、人が住んでいない空き家や使用していない別荘などを邸宅、住居や邸宅にあてはまらない建物を建造物といいます。
住んでいる人や管理している人の許可や正当な理由がなく、住居や邸宅、建造物に進入すると、住居侵入罪邸宅侵入罪建造物侵入罪がそれぞれ成立することになります。

今回の事例では、被害者はホテル跡地に立ち入っているようです。
このホテル跡地にはホテルだった建物が残っているようですから、建造物にあたると考えられます。
ですので、管理者に無断で侵入したり、侵入する正当な理由がない場合には、建造物侵入罪が成立する可能性があります。
今回の事例では、容疑者の一人がホテル跡地の所有者から管理を任されているようですので、許可を得て立ち入ったわけではなさそうです。
また、立ち入った理由は報道からでは明らかではありませんが、仮に肝試し目的での侵入だった場合は侵入するための正当な理由とはいえないでしょうから、被害者は建造物侵入罪に問われる可能性があります。

もしも、今回の事例で建造物侵入罪が成立した場合には、有罪になれば前科がつくことになります。

このように、心霊スポットで廃墟などに進入する行為は建造物侵入罪など、何らかの犯罪が成立する可能性があります。
罪に問われたり、トラブル生まないようにするためにも、他人が所有する敷地内には無断で立ち入らないようにしましょう。

容疑をかけられたら弁護士に相談を

恐喝罪建造物侵入罪は、被害者と示談を締結することで、不起訴処分を得られる可能性があります。
不起訴処分を獲得することができれば、罰金刑や懲役刑は科されませんし、前科がつくこともありません。
示談を締結するためには示談交渉を行う必要がありますが、加害者本人が示談交渉を行う場合には、被害者の連絡先を教えてもらえない場合があります。
ですが、加害者には連絡先を教えたくないが弁護士であれば教えてもいいと思われる被害者の方もいらっしゃいますので、示談交渉を行う場合には、弁護士に相談をすることをお勧めします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、初回接見サービス無料法律相談を行っています。
恐喝罪建造物侵入罪などの刑事事件でお困りの方は、年末年始も即日対応可能弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

【事例紹介】捜査先の民家から現金を盗んだ疑いで警部補を起訴

2023-12-03

【事例紹介】捜査先の民家から現金を盗んだ疑いで警部補を起訴

窃盗や強盗で手に入れたお金

事案

京都府警の警察官が職務で訪れた民家から現金を盗んだとされる事件で、京都地検は24日、窃盗の罪で、城陽市、府警捜査2課警部補(57)を起訴した。(後略)

(11月24日京都新聞「職務で訪れた民家から現金窃盗容疑 京都府警の警部補を起訴」より引用)

窃盗罪とは

刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

窃取とは、他人の占有する財物を、その占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転することを言います。
占有が認められるのは、客観的要件としての財物に対する事実的支配(客観的支配)と、主観的要件として財物に対する支配意思が必要です。
例えば、自宅で使っているデスクトップPCは、自宅という限られた人しか入れない閉鎖的な支配領域内にあるため、強い客観的支配が認められます。また、普段使っているのであれば、このデスクトップPCは自分の物だという支配意思も強いと言えるでしょうから、家主に占有が認められます。

本件報道によれば、容疑者である警察官は、民家に置いてあった現金を持ち出したようです。
現金は、民家の中に置いてあったようなので、上述のように家主には当該現金に対して強い客観的支配が認められます。
家主が当該現金のことをはっきり認識していた場合はもちろん、仮に当該現金の所在を忘れていたとしても、自宅内にあるわけですので当該現金を支配する抽象的な意思があったと言えます。
したがって、家主は当該現金を占有していたといえそうです。

そして、容疑者は当該現金を持ち出したようです。
被害者に無断で持ち出したのであれば、占有者である被害者の意思に反して自己の占有に移転したとして、窃盗罪が成立する可能性があります。

犯行時の内心

窃盗罪故意犯、すなわち自らの行為が犯罪であることをわかった上で行うと成立する犯罪です。
窃盗罪の場合、故意の内容は、他人の財物を窃取することを認識・認容していたことです。

このほかに、窃盗罪が成立するには不法領得の意思が必要であると解されています。
不法領得の意思とは、「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用しまたは処分する意思」とされています(最判昭和26年7月13日)。
権利者を排除し他人の物を自己の所有物として振る舞う意思を権利者排除意思といい、経済的用法に従いこれを利用し処分する意思を利用処分意思と言います。

まず、権利者排除意思は、刑罰を科されない使用窃盗窃盗を区別するための概念です。
使用窃盗とは、他人の財物を無断で一時的に使用することであり、被害者の被る被害が軽微であることから不可罰とされています。
本件では、容疑者は現金を持ち出して返すつもりはなかったようですし、被害者が被る被害は軽微とは言えないでしょうから、権利者排除意思を認めてよいと思われます。

次に、利用処分意思は、毀棄・隠匿の罪と区別するために必要な概念です。
毀棄・隠匿の罪は、物を壊したり隠したりすることで利用を妨げる罪です。
現金の場合、利用処分意思が認められる代表例は、何かの購入代金として使おう思って現金を窃取した場合です。
本件報道では、そのあたりの情報は不明ですが、仮に民家から持ち出した現金を使って何かを購入等していた場合、利用処分意思があったと評価され、窃盗罪が成立する可能性があります。

なるべく早く弁護士に相談を

本件では、容疑者は逮捕起訴されています。
逮捕は、容疑者が逃亡したり、証拠を隠滅したりする恐れがある場合にされる身体拘束で、逮捕中は、単に身体拘束されるだけでなく、捜査機関からの取調べが行われます。
取調べの結果は、調書として文書化されサインするよう求められます。
サインされた調書は、裁判が始まった際に証拠として用いられることがありますから、取調べ前に何をどのように供述するのか、しっかり考えておく必要があります。
もっとも、法律に詳しくない一般の方にとって、どのように受け答えするのが適切か判断することは困難です。
また、逮捕されたショックや不安の中、捜査機関から言われるがまま不利な供述の書かれた調書にサインしてしまうことがあります。

そこで、できるだけ早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。
法律のプロである弁護士であれば、事件の内容を踏まえて取調べでどのように受け答えすれば良いのかアドバイスすることができますし、逮捕された不安を軽減して落ち着いて取調べに対応できる可能性が高まります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、窃盗罪の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
逮捕前であれば、初回無料で弁護士に相談していただけます。
逮捕後の場合には、弁護士を留置場まで派遣する初回接見サービスをご利用できます。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。
初回無料法律相談初回接見サービスをご希望の方は、0120-631-881までお電話ください。

物品を水増し請求させて勤務先の病院に損害を与えた事例

2023-11-10

物品を水増し発注し、自身の勤務する病院に損害を与えた事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事件概要

京都府南警察署は、京都市中京区に住む医師の男(47)を背任罪の疑いで逮捕した。
男は、知人の経営する医療機器メーカーに、自身が勤務する京都市南区にあるK病院に対して水増し請求させて、病院におよそ2470万の損害を与えたとして背任罪の疑いで逮捕された。
男は常勤医師として、院内で必要な物品の購入及び管理を院長から任されていた。
男と知人は、水増し請求分を分配しギャンブルに使っていたとのこと。
(2022年11月16日中国新聞デジタル「背任の疑いで再逮捕 広署など」を参考にしたフィクションです)

背任罪とは?

刑法247条が規定する背任罪は、他人のためにその事務を処理する者(①)が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的(②)で、その任務に背く行為(③)をし、本人に財産上の損害を加える(④)犯罪です。

背任罪の主体は、「他人のためにその事務を処理する者(①)」です。
本件の男は、K病院の常勤医師として、院内で必要な物品の購入及び管理を院長から任されていたようです。
したがって、男は背任罪が規定する、「他人のためにその事務を処理する者」にあたる可能性があります。

また、背任罪が成立するためには、図利・加害目的すなわち「自己もしくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的(②)」が必要です。
ここでの「本人」とは背任行為の行為者に事務処理を委託した者を言います。
本件では、K病院の院長が男に物品購入及び管理を頼んでいたようなので、K病院が本人にあたります。
そして男は、「本人」である病院に支払わせた水増し請求分を、知人と分配していたようです。
したがって、自己と知人(第三者)の利益を図ったとして図利・加害目的があったと評価されそうです。

次に、背任行為すなわち「任務に背く行為(③)」背任罪の成立に必要です。
背任行為について、判例は信任関係の違背による財産の損害と考えているようです。
実際に、大審院の判決では、質物の保管者が信任関係に違背し、質物を債務者に返還することで財産上の損害を与えた事例では、背任行為にあたると判断されました(大判明治44年10月13日、大判大正3年6月20日)。
そのほかにも、信任関係の違背の例としては、銀行員が回収見込みがないに相手に対して、本来得るべき十分な担保や保証なしに、金銭を貸し付ける不良貸付や、保管を任されていた物を壊す行為などが挙げられます。
本件では、男は、院内の物品の発注担当者として、必要な物品を然るべき金額で購入することを病院に任されているにもかかわらず、それに反して知人に水増し請求させ過大な代金を病院に支払わせているので、背任行為があったと言えそうです。

最後に、「本人に財産上の損害を加えたこと(④)」も必要となります。
本件では、本人すなわち病院は、水増し請求により本来払う必要のない2470万円の金額の支払いをすることとなりましたので、男は本人に財産上の損害を与えたと言えそうです。

以上より、本件では背任罪が成立する可能性が高いと言えそうです。

なるべく早く弁護士に相談を

背任罪は被害者のいる犯罪です。
早い段階で被害者との間で示談を成立させ、真摯な謝罪と背任行為により与えてしまった損害を弁償することができれば、不起訴処分になる可能性があります。
仮に不起訴処分にならなかったとしても、判決前に被害者との間で示談を成立させることができれば、量刑が軽くなったり執行猶予付判決が得られるかもしれません。

もっとも、加害者が自力で被害者とスムーズに示談交渉を進められるとは限りません。
逮捕など身柄拘束された場合には、被害者含む外部の人とコンタクトを取ることは困難です。
逮捕されなかった場合にも、被害者は、信任関係を壊した加害者に対して強い処罰感情を有している可能性がありますから、示談交渉に応じてくれないこともあります。
そこで、なるべく早い段階で交渉のプロである弁護士に示談交渉を一任されることをおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、背任事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
示談交渉を数多く成立させてきた弁護士が被害者側と示談交渉を行うことで、不起訴処分の獲得のほか、量刑を軽くしたり執行猶予付判決を得ることができる可能性があります。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

神社で休憩中の会社員が被害にあった恐喝事件

2023-11-08

神社で休憩中の会社員が被害にあった恐喝事件について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事件概要

京都府下京警察署は、恐喝罪の疑いで京都市下京区に住む大学生3人を逮捕した。
事件現場は平安時代の歌人を祭る由緒ある神社。
容疑者の大学生等は、遊ぶ金を手にいれるため、お昼休憩で散歩していた会社員の男性(49)を取り囲んで胸ぐらを掴むなど暴行し、恐怖を覚えた男性に現金24万9000円と時計を差し出させた疑いが持たれている。
逮捕された大学生等は容疑を認めているという。
(11月2日 京都新聞「専門学校生を暴行、43歳会社員に金品要求 恐喝や強要など疑い、少年5人逮捕・送検」を参考にしたフィクションです。)

恐喝罪とは

刑法249条1項は、「人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する」としています。
まず、恐喝罪の行為である「恐喝」とは、①財産を交付させる手段として行われる暴行又は脅迫であって、②相手方の反抗を抑圧するに至らない程度のもの(相手方を畏怖させる程度で足りる)を言います。
本件では、大学生等は被害男性から金品を巻き上げるための手段として、暴行を加えたとされています(①)。
また、悪意を持った複数人の男性に取り囲まれて胸ぐらを掴まれるなどの暴行を受ければ、抵抗できない状態にまではならなくとも、通常は恐怖を感じると思われます(②)。
したがって、本件での大学生等の行為は「恐喝」に該当する可能性があります。

続いて、恐喝罪における財物を「交付させた」とは、恐喝行為を受けて怖がった被害者に、本意でなく財物を加害者(またはその仲間)に差し出させることを言います。
本件では、被害男性は、恐喝により恐怖を覚えて金品を差し出したようなのですから、恐喝罪「交付」があったと評価される可能性があります。

以上より、本件では恐喝罪が成立する可能性があります。

なるだけ早く弁護士に相談を

恐喝罪の法定刑は10年以下の懲役です。
執行猶予がつくためには、量刑が3年以下であることが条件の1つです。
執行猶予がつかず実刑判決が下った場合、刑務所に拘束されるため大学に通ったり会社に出勤したりすることはできず、解雇退学処分となることが珍しくありません。
したがって、刑務所での拘束を避けるためには、科される量刑を3年以内に抑えたうえで執行猶予付判決を獲得する必要があります。

執行猶予付判決を獲得するにあたって、被害者との間に示談が成立していることが大きな意味を持ちます。

ただし、金品を巻き上げた当の加害者が、直接被害者と示談交渉を進めることは通常困難です。
被害者は強い処罰感情を有していることは珍しくありませんから示談交渉のテーブルにつくことすらできないかもしれません。
そこで、交渉のプロである弁護士に第三者的立場から示談交渉をしてもらうことをおすすめします。
加えて、検察官に起訴される前に示談を締結できた場合には不起訴処分となる可能性も存在しますから、できる限り早い段階で弁護士に相談することが極めて重要です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、恐喝事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
示談交渉を数多く成功させてきた弁護士が被害者側と示談交渉を行うことで、量刑を軽くしたり執行猶予付判決不起訴処分を得ることができる可能性があります。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

清水寺で開催されたイベントの協賛金を横領した疑いで逮捕

2023-11-05

清水寺で開催された「日本国際観光映画祭」で協賛金を横領した疑いで、一般社団法人の代表理事が逮捕された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します

事件概要

映像祭の協賛金を横領したとして、京都府警東山署は25日、業務上横領の疑いで、千葉県、一般社団法人の代表理事の男(51)を逮捕した。
逮捕容疑は、清水寺で開催された(中略)に絡み、協賛金40万円を横領した疑い。
「横領した気持ちはありません」と容疑を否認しているという。
東山署によると、代表理事の男は映像祭で会計管理業務を担当。
協賛金は計550万円がいったん法人名義の口座に振り込まれた後、うち40万円が親族名義の口座に移されていた。(後略)

(10月25日 「京都・清水寺での催しに絡み協賛金横領、一般社団法人の代表理事を容疑で逮捕」より引用)

業務上横領罪とは

刑法は、横領罪として単純横領罪(刑法252条)、業務上横領罪(刑法253条)、占有離脱物横領罪(刑法254条)を規定しています。
単純横領罪とは、「自己の占有する他人の物を横領」する罪であり、
業務上横領罪とは、「『業務上』自己の占有する他人の物を横領」する罪です。
両罪は、横領した他人の物が『業務上』自己が占有する物であったかどうかで区別されます。
業務上横領罪の「業務」とは、金銭その他の財物を委託を受けて占有・保管することを内容とする職業もしくは職務をいうと解されています。

東山警察署によると、逮捕された代表理事の男は映画祭の会計管理業務の担当者として、企業から集まった協賛金を上記イベントの実行委員会の代表から依頼を受けて管理保管する職務についていたようです。
これが事実なら、本件は業務上横領罪で規定している業務に当たる可能性があります。

なお、占有離脱物横領罪とは、誰の占有にも属していない財物や、他人の委託に基づかずにたまたま占有するに至った他人の財物を領得する罪を言います。
例えば、電車に置き忘れられた財布や、誤って配達された郵便物(大判大正6年10月15日)などを対象とする横領罪です。

「自己の占有する他人の物」の意義

ところで、本件報道の事実関係のもとで、男は「他人の物を占有」していたと言えるのでしょうか?

窃盗罪強盗罪詐欺罪などにいう占有とは、物に対する事実上の支配を言います。
具体的には、金銭を鞄やポケットに入れている状態など、客観的に見てその金銭を所有しているとわかるような状態であれば占有があるとみなされます。
例えば、Aさんがポケットに千円札を入れている場合、誰が見てもAさんのポケットに入っている千円札はAさんのものだとわかるでしょう。

では、本件の場合のように銀行口座に預けられているお金はどうでしょうか。

例えば、Aさんが自身の口座に千円を預けた場合、この千円は預金先の銀行がAさんの代わりに保管することになります。
銀行はAさんが預けたお金以外にもたくさんのお金を保管しています。
このような状態では、Aさんが預けた千円について誰から見てもAさんのものだとわかるような状態だとはいえないでしょう。
ということは、Aさんが銀行に千円を預けた時点で、この千円の占有はAさんから移転しているといえます。

この考えで行くと、本件は企業から集まった協賛金をイベントの実行委員から預かり法人名義の口座で保管していたようなので、この法人名義の口座のお金には、本件の男はもちろんのこと名義人である法人ですら占有が認められないことになります。
そうなると、男には占有が認められないわけですから、法人名義の預金口座のお金は、業務上横領罪の成立要件の一つである「自己の占有する他人の物」に該当しないように思います。

しかし、この点について判例は、横領罪における「占有」とは、物に対する事実上の支配だけでなく法律上の支配も含むと解釈しています(大判大正4年4月9日)。
法律上の支配とは、法律上自己が容易に他人のものを処分しうる状態のことを言います。
実際に大審院の判決では、自分の口座に保管している金銭は、いつでも引き出して自由に処分できる状態にあるので、法律上の支配が認められると解釈しています(大判大正元年10月8日)。

したがって、自分名義の口座に保管している他人の金銭は、「自己の占有する他人の物」にあたり、これをを勝手に引き出して費消した場合には横領罪が成立する可能性があります。
本件では、協賛金を法人名義の口座に入金させ、この口座を逮捕された男が管理しているようですので、この法人名義の口座は「自己の占有する他人の物」にあたりそうです。

「横領」とは

最後に、横領とは具体的にどのような行為をすることを指すのでしょうか?

横領とは不法領得の意思を発現する一切の行為を意味します。
判例によると、横領罪における不法領得の意思とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」のことであるとしています(最判昭和24年3月8日)。

本件報道によると、男は、自らが代表を務める法人名義の口座に振り込まれた協賛金を、親族名義の口座に入金したとされています。
これが事実なら、男は本来イベントに使用するために預かっていた金銭を、その任務に背いて、あたかも自分の金銭であるかのように親族名義の口座に入金したということになるので、横領したと評価される可能性があります。
ですので、本件では、業務上横領罪が成立する可能性が高そうです。

示談交渉は弁護士にお任せください

横領罪は被害者のいる犯罪であり、被害者が被害届を出すことで警察の捜査が始まることが多い犯罪です。
業務上横領罪が疑われる事件では、警察に被害を相談する前に、会社側が本人との話し合いの機会を設ける場合が多く、被害弁償がされれば被害届を出さないと考える被害者もいらっしゃいます。
したがって、真摯な謝罪と被害弁償をした上で被害届を出さないでもらえるよう示談交渉することが重要となります。
仮に被害届が提出され捜査機関の介入が生じた場合でも、真摯な謝罪と被害弁償をしていれば、不起訴処分の獲得や罪の減軽、執行猶予付き判決の獲得につながる可能性があります。
もっとも、加害者自らが、被害者に弁償額や示談条件を直接交渉した場合、かえって被害者の神経を逆撫でする可能性があり大変危険です。
そこで、示談交渉は、交渉のプロである弁護士に一任されることをおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、横領事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
示談交渉を数多く成立させてきた弁護士が被害者側と示談交渉を行うことで、不起訴処分や罪の減軽、執行猶予付き判決を得ることができる可能性があります。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

万引きすると何罪?将来に影響は?

2023-11-03

身近な犯罪の一つとして、万引きがあります。
万引きを行った場合、どのような罪が成立するのでしょうか。
今回のコラムでは、万引きについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事例

Aさんは、京都市東山区にあるコンビニでお菓子を万引きしました。
店を出た直後、Aさんはコンビニの店員に呼び止められ、店長と話しをすることになりました。
その後、店長は京都府東山警察署万引きがあったことを通報し、Aさんは京都府東山警察署の警察官に話を聞かれることになりました。
(事例はフィクションです。)

窃盗罪とは何か?

窃盗罪は、刑法第235条によって定義されています。
この法律には、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と規定されています。
簡単に言えば、他人の財物を無断で取る行為が窃盗罪とされています。

万引きと窃盗罪の関係

一般的には店舗で商品を買わずに無断で持ち出すこ行為を万引きといいます。
しかし、法的にはこの万引き行為は「窃盗罪」に該当します。
つまり、万引きを行った場合、独立した「万引き罪」というものは存在せず、窃盗罪が成立するのです。

今回の事例のAさんは、コンビニで万引きをしていますので、窃盗罪が成立することになります。

この点が一般的な認識と異なる場合が多く、万引きを軽い犯罪と考えがちですが、実際には窃盗罪として法的に厳しく取り扱われます。
窃盗罪の罰則は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
万引きの場合であっても窃盗罪として裁かれる以上、上記のような刑罰が科される可能性があります。
このように、万引きによって窃盗罪が成立した場合、その罰則は決して軽くはありません。

また、万引きをした状況や背景によっては、さらに厳しい罰が科される場合もあります。
例えば、高額な商品を狙った万引きや、転売目的での万引きは、一般的な万引きよりも罰が重くなる可能性があります。

このように、万引き窃盗罪は密接な関係にあり、万引き行為がどのような目的状況で行われたかによって、その後の法的処分が大きく変わることがあります。

万引きと悪影響

会社員が万引きをした場合に、万引きをしたことを会社に知られると、解雇されてしまう可能性があります。
万引きは軽い犯罪だと捉えられがちですが、被害額が高額だったり、世間の目を引くような物珍しい犯罪内容である場合には、万引きであっても報道される可能性が高いです。
報道されると会社に事件のことを知られるリスクがありますし、逮捕された場合には長期間会社に出勤できないことで万引きをしたことや逮捕されたことを会社に知られてしまうおそれがあります。

また、学生が万引きをした場合にも、学校に万引きしたことを知られることによって、退学停学になってしまうおそれがあります。

万引きをすることで、窃盗罪で有罪になった場合には、前科が付くことになりますから、就職転職活動にも悪影響を及ぼす可能性があります。

窃盗罪と罰則

窃盗罪に対する罰則は、刑法第235条に明確に規定されています。
具体的には、「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」とされています。

懲役刑と罰金刑どちらが科されるのかは、前科前歴、余罪、被害額などから総合的に判断されます。
例えば、万引きしたものが高額な財物であった場合や、転売目的で万引きした場合、万引き前科がある場合には、科される罰則がより重くなる可能性があります。
また、被害者との示談が成立した場合や、初犯である場合などは、罰則が軽減される可能性も考えられます。

さらに、窃盗罪で有罪となった場合、その後の社会復帰も困難になることが多いです。
具体的には、前科があることが、就職転職の際に悪く評価される可能性が高いです。
企業は前科がある人を進んで取りたがらないでしょうから、就職転職活動が難航するおそれが非常に高く、希望する職種に就けない可能性があります。

事例のAさんはコンビニでお菓子を万引きしていますが、万引きしたものがお菓子であろうと、窃盗罪で有罪になる可能性がありますので、前科が付いてしまうおそれは十分にあります。
被害額が数百円だからといって窃盗罪が成立しなくなるわけではありませんので、上記のように会社の解雇や学校の退学処分、その後の就職転職活動に悪影響を及ぼす可能性は非常に高いです。

たった一度の万引きで将来を棒に振ってしまうおそれがありますので、万引きを軽い犯罪だと捉えるのは極めて危険だといえます。

被害弁償と示談の可能性

万引きなどの窃盗罪の場合は、被害者と示談を締結することで、不起訴処分の獲得を目指せる可能性があります。

万引きの場合、被害者は万引きをした店舗になるので、その店の責任者と示談を締結することになります。
店相手の示談交渉の場合、断られてしまうケースが多いです。
ですが、弁護士が連絡を取り、被害者がしっかりと反省をしていることを伝えることで、示談を締結してもらえる場合があります。
ですので、万引き示談を考えている場合は、弁護士に相談をすることをお勧めします。

転売目的の万引きとその重罪性

万引きが単なる衝動的な行動でなく、転売目的で行われた場合、その罪の重さは一層増します。
転売目的での万引きは、通常の万引きに比べて悪質性が高いと判断される可能性が高く、そのために法的な処分も厳しくなる傾向にあります。

具体的には、転売目的での万引きは、一般的な万引きよりも罰則が重くなる可能性が高いです。
これは、転売によって得られる利益が犯罪を助長すると考えられるため、より厳しい罰が科されるのです。

また、転売目的の万引きは、しばしば犯罪組織との関連が指摘されることもあります。
そのような場合、窃盗罪だけでなく、組織犯罪に関する法律に抵触する可能性も出てきます。
これによって、さらに罰則が重くなるケースも考えられます。

このように、転売目的での万引きは、多くのリスクと重大な法的影響を持っています。
そのため、この種の万引きが疑われる場合は、専門の弁護士のアドバイスが不可欠です。

窃盗罪に強い弁護士の重要性

窃盗罪、特に万引きなどの犯罪に関与した場合、専門の弁護士の支援が非常に重要です。
なぜなら、窃盗罪は一見単純に見えても、多くの法的要素が絡む複雑な犯罪であり、その対応には専門的な知識が必要だからです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、万引きなどの窃盗事件に精通した法律事務所です。
万引き窃盗罪に強い弁護士に相談をすることで、不起訴処分の獲得など、よりよい結果を得られるかもしれません。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部では、無料法律相談を行っています。
万引きで捜査を受けた方は、お気軽に、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

キャバクラで無銭飲食したらどうなるの?

2023-10-29

キャバクラで無銭飲食をしたとして、詐欺罪の疑いで逮捕された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事件概要

祇園のキャバクラで246万円分の無銭飲食をしたとして、京都府東山警察署は自称会社経営の男性(50)を詐欺罪の疑いで逮捕した。
男は、最初から支払いの意思がないにもかかわらず、祇園にあるキャバクラ店「まいこ祭り」に入店し、シャンパン数十本を注文した疑いがかけられている。

(2021年4月14日神戸新聞「出所翌日、一晩で63万円の無銭飲食 容疑で男逮捕」を参考にしたフィクションです。)

無銭飲食をすると何罪になる?

本件では、無銭飲食をした男が詐欺罪に問われています。
詐欺罪を規定する刑法246条1項は、「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する」としています。
「人を欺いて財物を交付させた」というのは、①被害者を欺いて(欺罔行為)、②それにより被害者が錯誤に陥り、③その錯誤に基づいて被害者が交付行為を行い、④その交付行為により財物が行為者に移転する、ということを意味します。

欺罔行為とは?

嘘をつく行為が全て、詐欺罪となりうる欺罔行為となるわけではありません。
詐欺罪となりうる欺罔行為とは、財物の交付に向けて人を錯誤に陥らせることをいい、その内容は財物の交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることであるとされています。

本件では、男は店員に対して「飲み食いした分の料金を払うつもりだ」と明確に嘘をついたわけではなく、店員が勝手に料金を支払ってもらえると勘違いしたようです。
支払の意思がないことを店員に告知しなかったという点をとらえて、本件は不作為による欺罔行為のケースと思われるかもしれません。
※被害者がすでに錯誤に陥っていると知りながら、真実を告げない行為を不作為による欺罔行為といいます。
例えば、生命保険を契約する際に、今までにかかったことのある病気を申告しなかった場合などが、不作為による欺罔行為にあたります。

しかし、常識的に考えれば注文時に代金を支払うと明言しなくても、注文すれば当然、注文した分の代金を後で払うことを意味するでしょう。
したがって、社会通念上、男の行為は注文という作為によって、店員を「男が注文した分の代金を払ってくれる」という錯誤に陥れたということができます。
そして、代金を払ってもらえることは財物を交付(シャンパン等の提供)するうえで、大前提となる重要な事項です。
以上より、代金を支払うつもりがないことを秘してシャンパンを注文した行為は、欺罔行為と言えるでしょう。

実際に、最高裁の昭和30年7月7日決定も、所持金がなく、支払い意思もないのに料亭で宿泊、飲食した行為は、宿泊と飲食をした際に詐欺罪が既遂に達する=支払いの意思なく注文をする行為は欺罔行為にあたると解釈しており、支払い意思のない状態での飲食店での注文は作為による欺罔行為だと認定しています。

欺罔行為に続く因果経過

上述のように、詐欺罪が成立するためには、①被害者を欺いて(欺罔行為)、②それにより被害者が錯誤に陥り、③その錯誤に基づいて被害者が交付行為を行い、④その交付行為により財物が行為者に移転する、という因果経過が必要です。

本件では、代金を支払うつもりがないことを秘してシャンパンを注文し(①)、それにより被害者が注文分の料金を支払ってもらえると錯誤に陥り(②)、その錯誤に基づき被害者が男にシャンパン等を提供しており、これが交付行為に該当します(③)。
そしてこの交付行為によって、シャンパンという財物が被害者から男に移転しています(④)。
したがって、本件では詐欺罪が成立する可能性が高いと言えます。

弁護士に相談を

詐欺罪は被害者のいる犯罪です。
被害者との間で示談を成立することができれば、不起訴処分となる可能性があります。
起訴された場合にも示談が成立していることは、罪の減軽執行猶予付判決の獲得につながる可能性が高いです。

もっとも、本件のように、詐欺罪の容疑がかけられると逮捕されることが少なくなく、逮捕された状態で、示談を進めること非常に困難ですし、被害者が示談交渉に応じてくれるとも限りません。
そこで、弁護士に示談交渉をお任せすることをおすすめします。
加害者と直接示談交渉することに抵抗を感じる被害者でも、弁護士が相手であれば、示談交渉に応じてくれることは少なくありません。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、詐欺事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
示談交渉を数多く成立させてきた弁護士が被害者側と示談交渉を行うことで、不起訴処分罪の減軽執行猶予付判決を得ることができる可能性があります。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

覆面男によるスタンガンを使ったコンビニ強盗事件

2023-10-27

覆面男によるスタンガンを使ったコンビニ強盗事件について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事件概要

京都市北区の閑静な住宅街にある深夜のコンビニで、覆面を被った男が店員に対しスタンガンを突きつけてレジを開けろと脅して、現金10万円とタバコを奪って逃走した。
事件のタイミングで、店内にいた店員と客に怪我はなかった。
(10月18日 伊勢新聞「鈴鹿でコンビニ強盗 覆面包丁男 現金奪い逃走」を参考にしたフィクションです)

強盗罪とは

本件の現金・タバコのように、他人の財物を奪う行為について、刑法236条1項は、「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する」と規定しています。

本件では強盗罪が成立するのでしょうか。

手段としての「暴行又は脅迫」

強盗罪が成立するかどうかを考えるうえで、強盗罪の手段とされる「暴行又は脅迫」の程度が問題となります。
というのは、刑法上、強盗罪の他にも恐喝罪公務執行妨害罪などで「暴行又は脅迫」という要件が課される犯罪類型が存在しています。
それぞれの罪が必要としている「暴行又は脅迫」の程度はそれぞれの罪によって異なります。

強盗罪は、被害者の財産を守る法律である一方で、被害者の生命・身体・自由を守る側面も持っています。
強盗罪における「暴行又は脅迫」は、被害者の反抗を抑圧するほどの強度の「暴行又は脅迫」であると解されています。
したがって、本罪の暴行は、反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使を意味し、本罪の脅迫は、反抗を抑圧するに足りる程度の害悪の告知を意味します。

問題となった加害者の行為が、被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫であるか否かは、「社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものかどうか」という客観的基準によって決せられます(最判昭和24年2月8日)。

この判断は、暴行又は脅迫の態様行為者及び被害者の状況日時や場所などを総合考慮して判断されます。
その中でもとりわけ重視されることが多いのが暴行又は脅迫の態様であり、加害者が殺傷能力の高い凶器を使用した場合には、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫と判断される可能性が高くなります。
なお、暴行又は脅迫が反抗を抑圧する程度に至らない場合については、恐喝罪の成否が問題となります。

本件では、男はスタンガンを突きつけてレジを開けるように要求しています。
スタンガンは、海外では死亡事例も多数報告されている非常に危険な凶器です。
これを突きつけた状態でレジを開けることを要求する行為は、要求に従わなければスタンガンを体に当てるつもりであることを示していると言えます。
スタンガンは命を脅かすおそれがあるわけですから、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の害悪の告知、つまり強盗罪が規定する脅迫にあたると推測されます。

「強取」の意味

強取とは、被害者などの反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を手段として財物を奪取することを言います。
本件では、男はスタンガンを突きつけるという、反抗を抑圧するに足りる程度だと思われる脅迫を行った上で、10万円とタバコを奪い取っていますから、「強取」にあたると考えられます。
ですので、本件では強盗罪が成立する可能性が高いと言えます。

ところで、本件では、社会通念上反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫がされたと推測されますが、実際に被害者の反抗が抑圧されたのかは不明です。
例えば、被害者が柔道の有段者で、反抗が抑圧されるまでには至らなかったが、怖いとは思って財物を提供した場合、強盗罪は成立するのでしょうか?

この点について、判例は、社会通念上、反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫がなされたが、実際には被害者は反抗が抑圧されなかった場合であっても、その暴行又は脅迫が原因で被害者が怖がって財物を提供した場合に関しても強盗罪が成立するとしています(最判昭和23年11月18日)。
したがって、上記の場合にも、強盗罪が成立する可能性があります。

執行猶予を付けてもらうためには

強盗罪の法定刑は、5年以上の有期懲役であり、非常に重い罪と言えます。
執行猶予がつくためには、裁判で下された刑が3年以下の懲役である必要がありますから、強盗罪の場合、刑の減軽がされない限り実刑判決は避けられません。

それでは、どのような場合に刑が減軽されるうるのでしょうか?
刑が減軽される場合として、被害者との示談が成立しているケースがあげられます。
したがって、強盗罪を犯してしまった場合には、被害者に被害弁償をして反省していることを伝えることで示談を成立させられるかどうかが重要になります。

弁護士に相談を

もっとも、加害者が独力で示談を成立させることは非常に困難です。
強盗罪のような重い刑罰が課される事件では、逃亡の恐れありとして身柄を拘束される可能性が高く、身体拘束を受けている状態では自ら示談交渉をすることはできません。
仮に自由に動けたとしても、被害者が知り合いでない場合には連絡先を知ることは困難ですし、入手できたとしても被害者が自分を攻撃してきた加害者と直接話し合いに応じてくれるでしょうか。

しかし、弁護士に依頼をすることで示談交渉を着実に進められる可能性があります。
また、加害者本人ではなく弁護士に対してであれば、被害者が連絡先を教えて話し合いの応じてくれることは少なくありません。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、強盗事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
示談交渉を数多く成立させてきた弁護士が被害者側と示談交渉を行うことで、執行猶予付判決を得ることができる可能性があります。
できるだけ早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

不法領得の意思って? 転売目的窃盗で逮捕

2023-10-25

ロードバイクを盗んだ疑いで逮捕された事件について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事件概要

京都市中京警察署は、ロードバイクを盗んだ疑いで京都市内に住む会社員の男を逮捕した。
盗まれた自転車は、世界最大規模の自転車プロ競技大会として知られる「ツール・ド・フランス」で2023年に優勝した選手と同じ型のロードバイクで、100万以上の値がつくとのこと。
逮捕容疑は、京都市内で建設業を営む会社の駐輪場で、同社の代表取締役(58)が所有するロードバイクを盗んだ疑い。
男は盗んだバイクをネットのフリマサイトで売るつもりだったとして逮捕容疑を認めているという。

(2022年12月17日 京都新聞「自転車盗みネット出品→被害者知人発見し購入→担いで現れた容疑16歳逮捕」の記事を参考にしたフィクションです)

窃盗罪とは

窃盗罪について刑法235条は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪」とする、と規定しています。
「窃取」とは、他人の占有する財物を、その占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転することをいいます。
また、「占有」とは財物の事実的支配や管理のことをいいます。
簡単に説明すると、誰が見ても持ち主がいることが明らかであり、持ち主が自分の物だと意識している場合に占有があるとみなされます。

ある特定の財物を所有している所有者が、事実的に支配している領域内にその特定の財物を置いていた場合、その特定の財物は所有者に占有が認められます。
これは、所有者が事実的に支配している領域内に置かれた物なので、客観的に見ても所有者やその他特定の人物が所有している物だとわかりますし、おそらく所有者に占有の意思もあるでしょう。
ですので、基本的に、事実的に支配している領域内に置かれた物には占有が認められることになります。

本件では、盗まれたロードバイクは、その所有者が経営する会社の駐輪場に置かれていたようです。
ロードバイクの所有者が経営する会社の駐輪場ですので、事件現場の駐輪場はその所有者が事実的に支配している領域内だといえます。
そうであるならば、客観的に見てそのロードバイクは所有者の持ち物ないしは、その会社にいる人が所有している物と推測できるはずです。
また、そのロードバイクは所有者が自分の物だと思っているはずでしょうから、このロードバイクは所有者が占有していたといえるでしょう。

そして、逮捕された会社員は、占有者である持ち主(代表取締役)に無断で売ろうとして持ち去ったようなので、占有者の意思に反して自己の占有に移転したと言えるでしょう。
先ほど窃取とは、他人の占有する財物を、その占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転することと書きました。
ロードバイクは財物にあたりますので、占有者(代表取締役)に無断で自己(逮捕された会社員)の占有に移転させた行為は窃盗罪が成立する可能性があります。

不法領得の意思

条文に明記されていないものの、判例によれば、窃盗罪の成立には「不法領得の意思」、すなわち「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」が必要とされます(最判昭和26年7月13日、大判大正4年5月21日)。

「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様に」部分を「権利者排除意思」、「その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」部分を「利用処分意思」といいます。
なぜ、判例はこのような条文に明記されていない要件を必要としているのでしょうか?

権利者排除意思

権利者排除意思は、窃盗罪使用窃盗を区別するために必要だとされています。

使用窃盗とは、他人の財物を無断で一時使用することであり、被害者の被る被害が軽微であることから不可罰(刑罰を科されない)とされています。
例えば、メモを取る際に他人のボールペンを一時的に使うような場合が使用窃盗にあたります。

上記の例の場合、ボールペンを使用した際に一時的に占有が移転しています。
占有が移転しているのであれば窃盗罪が成立するのではないかと思われるかもしれませんが、メモを取る目的でボールペンを使用したのであれば占有が移転していた時間はごくわずかでしょう。
ボールペンを一時使用した人は自分の物にしようとしたわけではありませんし、ボールペンの所有者が被る被害は極めて軽いといえます。
このように被害者が被る被害が軽微な場合に窃盗罪が成立しないようにするために、権利者排除意思が必要だといえます。

本件では、男はロードバイクを持ち去って転売しようとしており、被害者に返還する気はなかったようです。
被害者が被る被害は軽微だとはいえないでしょうから、本件は使用窃盗にあたらないでしょう。

利用処分意思

利用処分意思は、毀棄・隠匿の罪との区別のために必要だとされています。

毀棄・隠匿の罪は、簡単に説明すると、物を損壊したり隠すことで、利用を妨げる罪です。
例えば器物損壊罪信書隠匿罪などがこれにあたります。
これらの罪は窃盗罪占有侵害行為である点で共通します。
毀棄・隠匿の目的での占有侵害と区別するためにも、利用処分意思の有無で区別する必要があります。

本件では、男は、自己に占有を移転させたロードバイクをネットのフリマサイトで転売つまり処分しようとしています。
転売行為は自分が利用する目的だとはいえませんが、利用処分意思があるといえるのでしょうか。

不法領得の意思における経済的用法の解釈について裁判例は、「ここにいう「経済的用法」とは,その物を本来予定されている用法どおりに用いることを指すものでは必ずしもなく,窃取した財物をその財物として利用する意思があれば不法領得の意思があるといわざるを得ない」としています。(神戸地方裁判所 平成15年10月9日判決)
ロードバイクが本来予定されている用法はロードバイクに乗って走行することでしょう。
しかし、上記裁判例によると、本来の用法どおりに用いるだけでなく利用する意思があればいいと解されますので、本件のように転売目的でロードバイクを盗む行為について利用処分意思があったといえるでしょう。
また、転売する目的でロードバイクを盗んでいますので、毀棄・隠匿の目的にもあたらないと考えられます。

以上により、本件では不法領得の意思の観点から考えても、窃盗罪が成立しそうです。

逮捕された先に待ち受けているのは?

本件では、男は逮捕されて中京警察署にて身柄を拘束されています。
検察官は、勾留の必要があると判断すれば、逮捕後72時間以内に裁判官に勾留請求を行います。
勾留とは逮捕に続く身体拘束であり、最長で20日間拘束される可能性があります。
本件では、逮捕された男は会社員とのことなので、勾留された場合、会社に長期間にわたって出勤することができず、刑事事件を起こしたことが会社の知るところとなり、解雇される可能性があります。

また逮捕されている間、捜査機関は被疑者の取調べを行います。
逮捕されて不安な状態から解放されたいと思うがあまり、捜査機関の言われるままに不利な供述の書かれた調書にサインしてしまうことが少なくありません。
この調書は後の裁判で証拠として扱われますから、不利な供述の調書にサインをすることで、裁判で窮地に陥ることになるかもしれません。

できるだけ早くに弁護士に相談を

上述の通り、勾留された場合の不利益が大きいため、逮捕された場合には勾留されないことが非常に重要となります。
早期に弁護士に依頼することができた場合、弁護士から検察官や裁判官に対して勾留請求に対する意見書を提出することで、勾留を阻止できる可能性があります。
また、逮捕の初期の段階から弁護士のアドバイスを受けることで、逮捕され一人きりとなった不安を軽減し、取調べに適切に対応することができる可能性が高まります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、窃盗事件の豊富な弁護経験を持つ法律事務所です。
数多くの事件で勾留を阻止してきた弁護士が検察官・裁判官に対応することで、身柄拘束の長期化を防ぐことができる可能性があります。
可能な限り早い段階で一度、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。

【事例紹介】暴力団に言うぞと脅し、50万円を受けとった事例②

2023-10-08

前回のコラムに引き続き、近隣男性から現金を脅し取ったとして、恐喝罪の容疑で逮捕された事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部が解説します。

事例

慰謝料名目に近隣に住む男性から現金を脅し取ったとして、伏見署は4日、恐喝の疑いで伏見区深草(中略)の(中略)容疑者(57)を逮捕した。「脅し取ったものではない」などと供述し、容疑を否認している。
(中略)
逮捕容疑は9月30日、男性に対し「金払え、払わんかったら暴力団に言うぞ」などと怒鳴りつけ、慰謝料名目で現金50万円を脅し取ったとしている。

(10月4日 産経新聞 THE SANKEI NEWS 「「咳払いうっとうしいねん」近隣男性に因縁つけ50万円恐喝、容疑で男を逮捕」より引用)

逮捕と釈放

今回の事例では、被害男性は容疑者の近隣に住んでいると報道されています。
被害者が家の近くに住んでいる場合は、加害者が被害者に接触することが容易であると判断される可能性が高く、釈放が認められづらい場合が多いです。

また、今回の事例のような否認事件(容疑を否認している事件)では、捜査が長期に及ぶ場合が多く、証拠隠滅や逃亡のおそれが高いと判断されることも少なくないことから、被害者が近隣に住んでいる場合と同様に、釈放が認められにくいです。

弁護士は、勾留が判断される前であれば、検察官や裁判官に勾留に対する意見書を提出することができます。
意見書で、家族が監督することで被害者に接触できないようにさせることや、逃亡をさせないことを主張することで、釈放が認められる場合があります。
この意見書勾留が判断される前に提出する必要がありますので、勾留が判断される逮捕後72時間以内に行う必要があります。
検察官や裁判官に釈放を認めてもらえるような意見書を提出するには、意見書を作成する時間も必要になります。
勾留請求に対する意見書を提出できる期間は限られていますので、早期釈放を考えている方は、できる限り早く弁護士に相談をする必要があります。

また、勾留が決定してしまった後でも、裁判所に勾留決定に対する準抗告の申し立てをすることができます。
弁護士が申し立てを行うことで、釈放が認められる場合もありますので、勾留が決定した後でも弁護士に相談をすることをお勧めします。

繰り返しになりますが、勾留請求に対する意見書勾留が決定するまで、逮捕後72時間以内に提出しなければなりません。
ですので、この逮捕後72時間を逃してしまうと、釈放を求める機会を2回失ってしまうことになります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部は、数々の身柄事件で早期釈放に導いてきた実績のある法律事務所です。
早期釈放を目指すためにも、お早めに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所京都支部にご相談ください。
初回接見サービスのご予約は、0120ー631ー88124時間365日受け付けております。

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